元検察官の佐方貞人は刑事事件専門の敏腕弁護士。犯罪の背後にある動機を重視し、罪をまっとうに裁かせることが、彼の弁護スタンスだ。そんな彼の許に舞い込んだのは、状況証拠、物的証拠とも被告人有罪を示す殺人事件の弁護だった。果たして佐方は、無実を主張する依頼人を救えるのか。感動を呼ぶ圧倒的人間ドラマとトリッキーなミステリー的興趣が、見事に融合した傑作法廷サスペンス。


ホテルの一室で繰り広げられる激しい男女の諍いのプロローグから始まり、刺殺事件へと発展したその一件の公判へと続いていくのですが、合間合間で交通事故で一人息子を亡くし、その加害者が不当な理由で不起訴となり正当な罰を受けることがなかったという夫婦の話が語られます。それが本筋と交わったときに事件の真相が明らかになっていきます。


刺殺事件の被告人を弁護するのは検事を辞めて弁護士になった経歴を持つ佐方。現場の状況証拠などから被告人は有罪が濃厚とされていましたが、減刑や正当防衛ではなく一貫して無実を訴える被告人は嘘をついていないと弁護を引き受けます。ヨレヨレのスーツに無精髭な佐方がまたいいキャラしてるんだよな。一見無気力で気だるげなんだけど実は有能でやる時はやるっていうキャラクター大好き。


途中までは被告が誰なのかわからないという仕掛けがさすがでした。まんまとミスリードさせられてたけど、なるほどそういう復讐の仕方もあるのかと納得。わかってから読むとナイフを突き立てる練習をしているシーンが本当に切ないです。高瀬夫婦の同志の絆に最後まで夫が見せる頑なな姿勢に惹きこまれました。『最後の証人』というタイトルも秀逸。


「まっとうに罪を裁く」ことを信条に事件の裏側にある悲しみや葛藤に真摯に向き合って裁判に臨む佐方は弁護士のあるべき姿ではありますが、夫婦の思いを遂げさせてあげるのが正解な気もしてしまいます。島津の罪は明らかにしつつ有罪になってくれんかな・・・って思っちゃった。