時は流れる。 

 









高校に合格した時、親父から腕時計を貰った。


新品じゃないけど。
でも、嬉しかったよ。

毎日それで登校していた。




重いし、デザインが古いし。
間違っても、今じゃお目にかかれないだろう。

昭和感が丸出しの腕時計。





ふと思い出して、引っ張り出した。


曇りガラスのように傷だらけのガラス。
艶の消えたケース。
汗と汚れで黒ずんだベルト。 




あの頃からある、地元商店街の小さな時計屋。
何となく、持ち込んで相談してみた。




あれから一ヶ月。

今日、時計屋から連絡が来た。





驚いたよ。


これが、あの俺の時計か?と思える姿で。






そこには、手書きの手紙が添えられていた。





拝啓

 正直申しまして驚きました。
 私が工場に入りたての頃に手作業で組んだ時計に、また会えるとは思っておりませんでした。
 拝見した所、ご愛用頂けていたと察しました。物を作る仕事をしている者として、大変嬉しく思います。

 奇しくも何年か前に、海外アパレルメーカーの依頼で復刻版を作製する機会がご座いました。その折のアフターケアパーツのストックがございました。
 感謝の意を込めまして、私が誠意を持ってオーバーホールさせて頂きました。ここにご返送させて頂きます。
 末永く、共に時を過ごして頂ければ幸いに存じます。
かしこ





この手紙を、時計屋の爺さんに見せた。



笑っていたっけ。

優しい笑顔だった。










時は、誰にでも平等に流れる。




そして朝を迎える。




しかし、それは


決して、当たり前の事じゃない。






親父の十七回忌に間に合って良かった。




この古めかしいデザイン。

何年前の時計なのだろう。



しばらくの間、メインの腕時計にしようと思う。




-伊蔵-