年始に「おっさんずラブ」の一挙放送が行われていた。リターンズが始まることもあり、久しぶりだな、と録画して「おっさんずラブ」を見た。マドレーヌ効果と言うには直接的過ぎるだろうが、ふとリアタイ当時のことを思い出した。



それは2018年のことだった。突如トレンドに現れた「おっさんずラブ」。調べるうちにどうやら男同士の恋愛物ドラマらしいことが判明した。なるほど、よしきた任せろ!と、2話から入ったわたしである。いらない情報だが、当時、わたしの腐女子歴は二桁に突入していた。まずまずこなれてきた頃である。




とりあえず録画した2話を見た。





初手から風呂場で全裸(恐らく)の男に壁ドンして服を濡らしながら「好きだ」と言う男が出てきた。  





この時点で、1話を見逃してる自分からすれば「????」である。OKグーグル、巨乳と巨根は並列するのかい?



最初からクライマックス……!そんな、やや流行遅れの言葉がわたしの脳裏をよぎった。親が下に降りてきたらどうしよう。そう、当時わたしは実家の居間で見ていた。何故なら録画できるTVが居間と父の部屋しかないからだ。後者はちょっとご遠慮したい気持ちも分かってもらえたら、と思う。



さて、わたしは混乱しながらも2話を見進めていった。



結果、



大爆笑と切なさを残して2話は終わる。 



継続視聴が決定した瞬間である。




2話の見どころと言えば部長と牧のキャットファイトだったり、牧がキスを冗談にしたくてやっぱりできなくてわんだほうでブチ切れ告白したり、春田に「裏切られた気分だ」と暴言吐かれたり、ちずに叩かれて春田が牧を探しに行ったり、天体観測してる牧に「春田さんって何にも見えてないですよね」と言われたり、春田が泣きながら「ごめん」「友達じゃだめかなぁ」と牧にかきくどいたり、牧が「友達には戻れません」と言葉と共に春田のおでこにキスを贈ったり、とかく盛り沢山である。



1話を見たのが大分あとというのも影響していたかもしれない(DVDをレンタルしたので完結後)。2話の牧が見ていてしんどかったのも大きいと思う。当時、推しはわんこ属性の高い春田であったが、振り返るとこの時わたしの中で、すでに牧の幸せを願う気持ちが萌芽していたように思う。推しは春田、幸せになって欲しいのは牧。ねじれ国会が成立した。




その気持ちは、3話、4話、5話と拡張を続け、




問題の6話ラストである。春田役の演者さんは意識して演じられているでしょう。大正解です。一瞬、殴りたい、その笑顔と思ってしまったので(笑)。春田推しなのにすみません。それだけミスリードが上手かったんです……。




正直、どちらに転ぶか分からなかった。春田はどうやら部長と同棲していて、生活も安定しているようだ。牧とは嫌いあって別れた訳ではないが、6話ラストで1年経っている。更に職場には春田の他に、牧の元カレである武川さんもいる。確かに「いちご100%」みたく東城綾ではなく西野つかさに行くパターンも考えられよう。だが、わたしは次回予告に踊らされ、公式の手のひらでひたすら転がり続けるタイプである。




公式で「ヒロイン」として紹介されているのは武蔵であり、牧は「ライバル」であった。そして主題歌の"Revival"は別れの曲である。




春田と牧は、夏を越せなかったカップルなのだ。




「思い出は、時に曖昧で、美しくすり替わっていく。それでもいい。そうだとしても、忘れたくない」("Revival"歌詞抜粋)





「人を好きになるということはどういうことか」という事を書いているこの作品。牧との別れを経て、人間的に成長した春田が武蔵と愛を育むエンドもあるのではないか。牧と武川さんも生活パターンのすれ違いで別れたならば、その二人がよりを戻す可能性もあるのではないか。それならば最終話で納得する描き方をされるのだろう、そう冷静に考えるわたしもいた。"Revival"の単語の意味をグーグルで検索すると「復活」と出てくる。これが、春田と部長、牧と武川さんの事を指すことも当然ありうる。




しかし心の中のもう一方のわたしは「春田と牧がくっつくんじゃなきゃやだやだやだ〜!!」とゴネまくっていた。それはもうネゴシエーションの余地無くゴネにゴネてた。牧の幸せを願う、それは確かだ。でも相手は春田が良かった。春田の幸せを願って身を引いた牧に、その献身に、嘘で纏った本音に、傷ついた表情に、他の誰でもない春田本人に気づいて欲しかった。これはどうにもこうにも理屈ではなく感情論である。



とにもかくにも7話までの1週間をわたしは過ごした。個人的に感情の押しつけは好きではなかったし、ドラマを「好きなCPがくっつかない」理由で最後まで見ずに批判するのも嫌だった(※これはあくまでわたしがこういうタイプなだけなので、楽しみ方や離れ方は、それこそ人それぞれでいいと思います)。



私事ではあるが、当時職場で試験を控え、夏休みにはその現実逃避で渡英旅行することも決まっていたので勉強したり準備したり、割と忙しかったのも幸いした。





そして迎えた7話、ラスト15分頃である。




いや春田、遅!!!





そこで気付くの!?!?!?(神様に誓っちゃったよ!!!!)



全わたしが「その前に気付けただろう」という突っ込みを入れる中、彼は「牧とはキスできても部長とはできない」と式本番で気付いた。アメイジング・ハルターマン。いや全然アメイジングじゃないんだけども。アウトかセーフで言ったらアウトだけども。



けれどかつて部長に片靴を履かせてシンデレラにした男が、今度は自分の片靴を潰してまで走って好きな人を探しに行く。視聴側にも「どうか間に合って…!」とハラハラ緊張感が走る。残り時間的にも。




春田は牧が好きだった。思えば2話から「牧が女だったらあの告白は嬉しかったのだろうか」「牧が男だから駄目なのだろうか」と悩み、武川さんから「牧と別れてくれ!」と土下座された時も「(武川さんと牧が付き合うって)なんか嫌だな」と思い、牧に別れを告げられた時も「駄目なとこあったら直すから」「(牧の)お父さんに認めてもらえるように頑張るから」と泣きながら縋り、牧に対しては本人が超の10乗無自覚なだけで熱量が大きかった。




春田はデリカシーが無いけれど、ノンデリカシーで牧のことを傷つけてばかりだったけど、ちゃんと牧が好きで、その都度向き合っていた。牧から「俺は春田さんにとって恥ずかしい存在なんですか」と言われた時も言葉に詰まるが、後に「牧といることは、俺にとって全然恥ずかしいことじゃないから」と答えた。彼は分からないなりにも、言われた事に真摯に向き合おうとしていたのだ。何なら職場でカミングアウトもした。いやちゃんと牧と話してからにしなさいよ、とは思ったけれど、彼なりの真剣さだったんだろう。



これは部長に対してもそうで、好意を向けられて春田は当初戸惑う。でもきちんと振った。春田には、そういう誠実さがある。



牧はちずに言う。「幸せになって欲しいから別れた」「結局、自分が傷つくのが怖かっただけ」と。なんて悲しい本音だろう。牧の生きてきた世界が少しだけ垣間見える。しんどい。



牧は追いついてきた春田にも言う。「俺と一緒だと春田さん幸せになれませんよ!」と。この期に及んで、言う。対して春田はそれを飛び越えて来る。「お前はいつも勝手に決めんな!」「俺はお前とずっと一緒にいたい!」「だから!」「俺と結婚してください!!!」と。泣きながら、べしょべしょになりながら牧に抱きついてくる。まるで子どものように。縋るように。格好良さの欠片もないし、何なら靴も片方脱げっぱなしだ。中の人が中の人なため顔は良いが(そして余談の余談だが中の人が鍛えているため牧が言ってるように「謎にいい身体」)、この告白シーンは泣き顔でそれもグシャグシャである。でも春田はそれでいい。そこがいい。きっと牧が好きなのも、そんな春田さんなんじゃないだろうか。



そして春田の告白。付き合ってくださいではなくプロポーズである。交際通り越して結婚である。牧が気がつくと家出チワワなせいもあろうが(全7話中未遂含めて3回家出している)、春田にとって牧は本人が言う通り「ずっと一緒にいたい」相手なのだろう。



春田と牧が別れた「空白の一年間」。春田は部長のお陰で立ち直ることができたけれど、トラウマは残ったろう。牧が、またいつか自分から離れてしまうかもしれないというトラウマが。だから無意識にでも縛りつけたいのだ。「結婚」という言霊によって。自分と牧を繋ぐ糸が切れないように。一生一緒にいれるように。



とはいえ春田側にとって同性の壁はそれなりに大きいのか、7話ラストでも牧にキスされて春田はぎゃあぎゃあ喚く。今ならうるせぇ唇だな、とリターンズに出てくる和泉さんの言葉を言いたくなってしまう。が、この演技、中の人がとてもよい。まず牧である。キス後にちょっと伏せ見がち、そうですよねまだ春田さんには早かったですよね、と諦観かはたまた寂しげな表情を見せる。それを受けた春田の表情もまた絶妙だ。牧の表情を見て、またこいつ変なこと考えてるな、と言いたげな一瞬、笑いを隠せてない。そして視線を逸らすトラップを使って牧を押し倒し、「んなわけねぇだろっつの」と春田から牧にキスをする。



春田から、牧に。




ここで暗転して終わってしまうのだが、こちとら突然の雄を見せてきた春田にリンゴーーーーンと祝福の音がなる。イエーーーイ西野エンド!!!!!西野つかさ!!いや違う牧凌太!!!春田にそういう対象に見られてるよ!!!牧!!良かったねえええ!!!!!!といつの間にやらこちらがうるせぇ唇になってる。春田と違い脳内で煩くしてるので勘弁してほしい。いや、春田も基本脳内が煩い人だが。




余談ではあるが、当時、7話のラスト15分は夕飯を食べにダイニングキッチンへ降りてきた父にばっちり見られた。タイミングが神過ぎないか。故に春田の泣きながらの告白も、牧の「ただいま」もそれを受けての春田の「おかえり」も見られている。この段階でわたしは、これは同性なだけでただの恋の話だし、早く結末が知りたい気持ちも勝ったし、別にいいかなと思った。肌色強めの2話や5話冒頭だったらちょっと躊躇していたかもしれない。アラ還の父が、ダイニングキッチンで居間のTVを見ながら何を感じたのかは分からない。娘はそこまで突っ込んで聞けない。故にずっと藪の中案件である。





ところで春田役の役者さんは当時、最終回前にパブサで世間の反応を見ていたらしいのだが、後に「どう考えても好きあってるし、牧(ルート)なのに結構ミスリードされるんだなと思った」「春田は最初から牧が好きだった」みたいな事を語られていた。それを踏まえて1話から見直すと、ふ~んへ~ぇ春田ってこの時点で牧が好きだったんだぁ~と、とにかくによによしてしまう。情報開示ありがとうございます、春田役の田中圭さん。





春田と牧の、泣きながらの「ただいま」「おかえり」で幕を閉じた2018年版「おっさんずラブ」。映画を挟み、リターンズはちょっと照れ臭そうな二人の「ただいま」「おかえり」で幕を開けた。




リターンズ1話で武川さんが「夫婦とは、長い会話である」とニーチェの言葉を引用していた。





ならば春田と牧の長い会話は、まだ始まったばかりなんだろう。






リターンズのことは、また機会があったら書くかもしれない。今は毎週、春田と牧の新婚イチャイチャぶりを楽しんでたり、牧と武蔵のキッチンバトルで大爆笑したり、公安ずラブで脳内爆発したりなどしてます。一人二役凄いですよね……!





※おそらく細かな台詞違い、或いは勘違いなどがあるかと思いますので、その点ご容赦頂けると幸いです。また、これはあくまで一個人の感想ですので、解釈違いなどは当然起こりうると思います。ご留意頂けますとありがたいです。