いつか幸せは向こうからやってくる 第37話 | アンドロギュノスの恋

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現在、活動中止中ですがweb小説書いてました。
ここでは、物語のPR、執筆中に聴いていた音楽のことなど、とりとめもなく紹介していました。

現在は日々の戯れ言三昧……(^^ゞ

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V.Bellini

Norma

 

第37話 差出人、高島優菜……

 

 ずっと流れていた涙がようやく乾く頃、京極さんからのメールが届いた。

『はい、今日のおすすめ』

 その言葉とともに、タリーズコーヒーのテイクアウトカップの写真が送られてきた。
 京極さんに罪はない。悪いのは私だ。そう思うと、このまま彼の好意、思いやりを受け続けるのはもうやめるべきだと思った。

『こんばんは。いつもありがとうございます。
 せっかくなのですが…… 京極さんにお話ししておきたいことがあります』
『えっ? 急に何? 怖いな』
 唐突だった。自分の送った文面を見て、あまりの身勝手さが嫌になる。
 でも仕方ないと思った。もう、彼には縋れない。
『私、勝手です。身勝手です。ごめんなさい、でも、もう隠せないです』

『それ、言わなきゃだめ?』
 一瞬たじろいだ。私は何か重大な過ちを犯しているのかもしれないと思って急に恥ずかしくなった。もし、京極さんが、ただの同僚としてメールしてくれているのだとしたら、私はなんと酷い勘違い女なんだろう。

『すいません…… 』
 言葉が見つからなかった。
『身勝手は僕も同じだよ。詳しいことは知らない。だけど中澤さんの悩みの原因は想像ついてる。そして、その悩みが報われぬ決着に終わることを、僕は密かに願ってきた。身勝手にもずっと』
 彼が鈍感じゃないことは薄々感じていた。彼のような気遣いのできる人が、私の分かり易い反応が何に由来するか、そのことに気付かない訳がないと思っていた。だから、本当は彼のことが怖かったのかも知れない。私の身勝手な恋を、いつか容赦なく切り捨てられる気がして怖かったのだ。

『そうですよね、京極さんが気付かない訳ないですよね。失礼しました。だから、ごめんなさい。私、今、ちゃんとメールにお返事することもできそうにないです』
『電話で話せない?』
 彼のことは嫌いじゃない。でも、遼ちゃんに対して思ってる気持ちとは明らかに違うことに、もうはっきり気づいた。

『せっかくですが、それはお断りします』
 自分でも驚くほどきっぱり言い切った。ちょっとだけ、後で悔みそうな気もしたが、もう後の祭りだ。
『そうですか。そんなに嫌われたら仕方ないね』
『嫌ってなんかいません!』
 速攻で返信した。我ながらイヤらしい女だ。ヘドが出る。

『中澤さん、僕は君が好きだ。だから、君が嫌がることはしない。だけど、好きだから聞きたくないこともある。知りたくないこともある。でも、もし、君が僕に吐き出して済むことなら、僕はそれを僕の心の奥底に深く沈めて、二度と僕たちの目の前に現れなくさせることはやってみせる。その覚悟で電話していいかと訊ねた。
 もう一度訊く。電話していいか?』
(京極さん…… 今日じゃない…… わかって)
 何も返信できぬままに時間が過ぎた。

 深夜、彼から電話があった。その電話にはどうしても出ることができなかった。

 

✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤

 

 

第37話からは冒頭の一部をお届けいたしました。物語はこのあと、何の連絡もないまま二か月が経過します。
 
前にも申し上げた通り、京極には男としての理想を重ねています。美辞麗句などひと言も用いず、しっかりと相手と向き合って真実を伝える、そんな男です。その男の覚悟のひと言です。
 
佳矢もこれまで京極の優しさに縋るところがあったようですが、ようやくそのことの誤りに気づき、きちんとした返事を返します。いつか結花が言っていたように、佳矢はいつまでも二人の男性と曖昧な関係のままでいられる人物ではなかったということです。
 
では京極と佳矢の関係はどういうものだったのでしょうか?
 
京極と佳矢との関係は恋愛ではないかもしれない。ただ、京極にはそれを超えた次元で「友愛」の情がある。単に佳矢を女性として見るのではなく、人間として気がかりで仕方ない、という感じでしょうか。だから、佳矢が個別具体的な恋愛に悩んでいたとしても、悩んでいること自体を気にしてしまう。
 
佳矢には相手の男性に父性を探すことがあると言いましたが、その父性とは、実は京極にこそ発揮されているのかもしれません。同じ年で、危険な匂いのしない京極はいい人、ただの同僚だったはずですが、そんな彼こそ、本当は佳矢を受け止められる父性の実現者でした。
 
しかし、佳矢は今はそれどころではない。京極に縋ってはいけないと覚悟を決めます。それもまた、健気な佳矢らしい判断ですが。
 
さて次回最終話。時間も飛びますが、人々を取り巻く様子も……