いつか幸せは向こうからやってくる 第16話 | アンドロギュノスの恋

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現在、活動中止中ですがweb小説書いてました。
ここでは、物語のPR、執筆中に聴いていた音楽のことなど、とりとめもなく紹介していました。

現在は日々の戯れ言三昧……(^^ゞ

よろしければお付き合いください(^▽^)/

W.Mozart

Die Zauberflote

 

第16話 ふん、幸せなくせに

 

「明日さ、泊まりに行ってもいい?」
「私は構わないけど。でも月曜日から大丈夫なの? 結花は」
 話ながら週末より平日の方がいいと咄嗟に気がついた。
「いいよ、おいでよ。結花さえよきゃ」
「会って鬱憤を晴らしたい!」
「なんだか荒れそうだね」
「荒れるよ、もう、絶対に荒れる」
「うわっ、なんかマジっぽい」
「マジだよ、マジで荒れる」
「ねぇ、どうしたの? 何があったの?」
「…… 会いに来ないって言うんだよ」
「結城クン?」
 それ以上聞くのが怖くなった。私たちの現実を目の前に晒されるようで怖かった。

「その言い訳が腹立たしいんだよ。アイツ、なんて言ったと思う?」
「…… わからないよ」
「週末は彼女のところに会いに行くから無理だ、ってさ」
「…… うん」
「だから平日に来やすいようにこっちに越したんだよって言ったわけ」
「…… うん」
「そしたらさ、平日は仕事だから行けないっていうんだよ、どう思う?」
「…… うん」
「それならさ、最初から言えっていうんだよ、ったく。こっちが引っ越しでどんだけ金使ったと思ってんだよ」
「…… うん」
「板橋にいた方が都合が良かったのに、だって。ふざけてるよ、アイツ!」
「…… うん」
「板橋にいたって、週末は彼女と一緒じゃないの?って聞いたらさ、あいつヌケヌケと言うんだ」
「…… なんて」
「夜だけなら会えるのに」
「…… 」
「小僧にさ、そこまで言われてセックスなんかできるか!」
「…… 」

 彼女は泣いていた。あの結花が泣いている。理不尽に耐えきれず、この上ない辱めを受けたことに泣いている。34歳の女の気持ちを、これっぽっちもわかっていない23歳のオスに、なす術もなく泣いている。

「佳矢…… 私もうイヤだ…… 疲れたよ…… もうヤダ」
 とうとう大声で泣き始めてしまった。

 なぜ女は男を求めるのだろう。こんな目に遭って、理不尽という言葉以外に何も見つからず、だけど、これを聞いた普通の大人は、11歳も年下じゃあね、などと簡単に言い放ち、その言葉はきっと私には、既婚者が相手じゃね、という尖った言葉に変わり、彼女や私の心臓を抉る。
 なぜ求めてしまうのだろう。セックスなんかしなくてもいい。欲しけりゃ昔の彼に頭を下げてやってもらえばいいだけじゃないか、そんなことまで考えた。

「結花、あしたおいで。しばらく、私の家から板橋に通えばいいよ。一緒に通勤しよ、ねっ」
「佳矢…… 佳矢ぁ~~~~~」
 一層大声で泣き始めた。

 

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第16話より文中の一部をお届けいたしました。この回は、海辺の街からの帰り道、佳矢が結花にメールするところから始まりますが、上記はその続きを電話で話す場面です。
 
再び佳矢と結花。女の友情物語です。
 
友情というのは相手のやることを理屈で判断しない関係です。法や倫理の建て前を持ち出し行動を諫めようとはしません。むしろ、傍目には非人情な提案をしたりする。この物語の中でも、結花は驚くような提案を佳矢に投げかけます。そりゃマズいでしょ? と思うようなこと、身勝手すぎるだろ、と思うような提案です。
 
しかし、友情だけはそれを許します。佳矢は語ります。同じようなことを他の誰かがしていたら許せないことも、結花だったら許す、応援する、人の意見なんて、立場によって簡単に入れ替わると。
 
私たちが偉そうに芸能人の不倫を一刀両断できるのは、その人物とまるでかかわりのない外野だからです。もし、目の前の友人がそのことで悩んでいたとしたら、きっとその関係も一旦は許容するでしょう。許容して、人間ってのは何と愚かで悲しい存在なのだ、ということに気づかされることでしょう。そして一緒に泣くことでしょう。
 
佳矢は本当に幸運でした。結花はかけがえのない友人に間違いありません。時々、凄い話にびっくりさせられますけどね(^▽^)/