いつか幸せは向こうからやってくる 第7話 | アンドロギュノスの恋

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現在、活動中止中ですがweb小説書いてました。
ここでは、物語のPR、執筆中に聴いていた音楽のことなど、とりとめもなく紹介していました。

現在は日々の戯れ言三昧……(^^ゞ

よろしければお付き合いください(^▽^)/

 G.Puccini

La Boheme

 

第7話 やっぱ女は損だわ

 

「どう思う? ウザい女かな、私」
 アイスコーヒーをカラカラ混ぜながら、結花は視線を落としたままポツリと呟いた。

「男って追いかけてくる年上の女は嫌なものかな?」
 コップの水滴を指先で拭いながら、私は肯定も否定もできず、ふぅ、とため息をついた。8歳年上の彼を追いかける私ですら、本当は嫌がられてるんじゃないかと気にしている。結花の気持ちはよくわかる。

「曖昧なんだよ、あいつ」
「何が?」
「今度、近くに引っ越そうかなーって言ってみたのさ。でもあいつ、自分がどこに住んでるか教えないんだよ。引っ越したら行くよ、ってだけでさ」
 その時のふたりがリアルに脳裏に浮かび、一瞬、言葉を失った。
 私ならそこでもう終わり。その先の反応が怖くて次に会うなんて考えられない。
 でも結花は私とは違う。男性からの愛情を黙って待つような女性じゃないはず。なのに、そんな彼女がいつもより俯き加減だから、つい期待を繋げられそうな言葉を選んでしまう。
「まだ新人だから他の人の目も気になるんじゃない?」
「そうなのかなぁ」
「来るなとは言わないんでしょ?」
「言わないよ、そんなこと。
 この前もさ、時計が欲しいって言うから、買ってやったよ。こうなったら車でもなんでも買ってやるよ」

 好きだからいい、自分がしたいからしてるだけ、彼女の答えはいつも同じ。だけど、何かを介在させなければ成り立たない関係に納得している訳ではないだろう。
 私も人のことを偉そうに言える立場にはない。海辺のあの部屋だけが彼を引き止めているようなものだから……
 でも、もし相手と心から繋がれるのであれば、物や金銭が介在してもいい気がする。結婚して安定を求めることだってそれと似たようなもの。相手が差し出す物や金銭に繋がっている。そこに違いはない。

「結花がしたいと思うとおりにすればいいよ、それで」
「ホントにそう思う?」
 強い視線で問いかけられた。嘘はいらない、そう訴えてくる。
「ごめん…… 本当のところはわかんない」
 彼女のことを背負える余裕なんて、今の自分にはない。

「いいんだ、佳矢がどう思ってても。
 だけど知ってて欲しい。バカだなあと思っても、今みたいに聞いてくれればそれでいい。誰からも関心なくされると死にたくなっちゃうから……」
 強い女のはずが、驚くほど弱気を漏らす。35歳…… ふと、窓ガラスに映ったふたりの姿が目に入る。
「そんな……」
「前はふたりでよく飲み歩いたよね。でも今は……
 なんか取り残された気分。焦るよ全く」
 そう言ったきり、結花は再びアイスコーヒーをカラカラかき混ぜた。

 ひと組の男女が注文カウンターで商品の出来上がりを待っている。そのうちの女性と目が合いそうになったが、すーっと視線を逸らされた。
「結花…… 私のは先がない関係だから」
 男女の方に目を置いたまま、不意にそんな言葉が口を突いて出る。
「だけど毎週だよね? もう2年でしょ? 30半ばの独身女相手に40過ぎの男が先も考えず続ける? そんな関係」
「彼は続けられる人なの」
 その言葉に、結花は呆れたと言わんばかりの顔を私に向けた。
「続けられること自体が愛なんじゃないの?」

 そうなのだろうか? 一瞬、彼の姿を思い出そうとしたが、私にはプラットフォームを去っていく後ろ姿しか浮かばない。
「じゃあ訊けばいいじゃん? この私をどうしてくれるのよ? って」
「…… 訊けない」
(訊ける訳がない…… 結花と私は違うんだよ……)
 そう応える前に結花がじっと見つめて言う。
「佳矢は訊けないか…… そうだよね。佳矢は訊けないな。
 訊けない代わり、わっかりやす〜〜い態度取ったりするんでしょ?」
「なにそれ?」
「相手をじーっと見つめて突然涙を流す、とかさ、アハハ」
「…… 」
「当たっちゃった?
 カワイイなぁ~佳矢は、とか言われてるんでしょ⁉」
「…… 」
 見てきたように言うから、何も言い返せない……
「バッカみたい‼ あんた、たまには私の心配しなさいよねっ!」
 結花が笑いながら私の肩を叩く。

 

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第7話より冒頭の一部をお届けいたしました。物語はこの後もふたりの会話が続きます。互いに自分の恋愛に満ち足りぬものを感じながら、相手の恋愛話を聞き、そこに共通する姿を見つけると同時に、変わらぬ友情も確認し合います。
 
 

佳矢と結花。中学時代からの親友です。

男性に比べると女性は友情が成立しにくいと言われますが、そうでもないと思いますね。それは男女というより人によるだろうと。私なんかは男性との友情が全く成立しないヤカラですし(^^ゞ

 

友情の第一歩は相手に対する関心ですかね。佳矢は結花を、結花は佳矢をよく見ている。特に結花は佳矢がやることはなんでもお見通し、という感じです。他者に依存する傾向の強い佳矢にとって、結花は自分の姿を客観的に映す鏡のような存在なのかもしれません。

 

そして友情が成立し続ける条件は相手と自分を比べない、ということでしょうか。結花は佳矢の話を佳矢の話として聞いている。自分ならどうだ、という思考回路を回しません。ふーん、そうなんだと聞いている。

こんな友人だと一緒にいて楽かもしれませんね。

 

これから先、佳矢は結花によって救われ続けます。あなたのやってることは不倫なんだからダメなんだ、結花は、決してそんな言い方をしません。そんな女性が友人であったことは佳矢には救いだったかもしれませんね。