おいテメエ川原先生のベストは出したみてえだがよ、なんで遠藤淑子先生の傑作は考えねえんだ? え? 思考放棄か? チャッチャと紹介しろよ、さもねえと変わり果てた爺がある朝裏山の沼にプカプカ……的な抗議が異次元から電脳攻撃として感じられる今日この頃、皆様いかがお過ごしじゃろう。今回は遠藤淑子先生のワガハイ的短編ベスト5を挙げさせてくれ。連作中編も『エヴァンジェリン姫』『退引町』『マダムとミスター』『だからパパにはかなわない』……傑作しか存在してないし、全く困った先生じゃ。では行こう。

『ファンタジーだよーん』



ふざけた題名、作品舞台はファンタジー界なのに主人公は蕎麦屋を営むデンシチ、そこに逃げ込んできた美形の少年は田中仁蔵、飼い犬は貫蔵。脱力してしまうが、先生の時代劇好きとギャグセンスが堪能できる。よくもここまでふざけ散らしたものだ。

『シンシアリー』



ドタバタアクションや爆発がやたら多い初期の傑作。危ない仕事をしてると思しき柄の悪い間柴青年が、日本語が妙に堪能なくせに京都で迷子になった外国人美少女に人探しを頼まれる。柄は悪いが人柄のいい彼は、いいとこのお嬢様らしき彼女の初恋の人を捜索する手伝いを引き受け……ワガハイは英語のシンシアリーという語の使い方をこの作品で覚えた。ナツカシー。

『君の為にクリスマスソングを歌おう』



遠藤先生が戦争という悲惨と正面から向き合いお書きになった名作。反戦マンガは数々あるけれど、この作品を挙げるヤツがいないので腹が立つ。前線の兵士達がクリスマスに余興としてキリスト生誕劇をやることに。マジメな前線指揮官はファンキーな従軍牧師の書いた台本や純真な通信兵に振り回される。軍隊コメディかと思いきや……この作品を全言語に翻訳して紛争地帯に投下しないのはなぜだ!と絶叫したくなる。

『憂鬱な王様』



以前紹介したはずだが、ファンタジー的設定なのにユーモアドタバタ、でも最後はしっかりファンタジーという天才ならではの傑作じゃ。政略結婚でブサイクな白鳥を嫁にとらねばならなくなった弱小国の王子、大国が怖いからあらゆる臣下が白鳥を人間の姫扱い、真相を認めたのは昔から仕える忠実な侍従のウエスリーだけ。二人は共謀して白鳥姫の暗殺を謀るのだが……。純粋に良い話だと思わせてくれる見事な創造力。

『HEAVEN』

わ、見つからない。これは戦争を扱ったハードな内容の連作中編。近未来を舞台に、女性兵と要人暗殺用アンドロイドの交流を描いた作品で、先生の作品中屈指のシリアスさ。不条理から逃れられず自死すら許されぬ状況に置かれたとき、それでも人は人たりえるのか。先生は『人たりえる』という決然とした答えを提示なさった。なんという勇気、なんという信頼か。総ての女性的なるものに心からの敬意と思慕を抱かずにはいられない。

指摘する人はいないようだが、遠藤先生の著作の根底にあるのは『女性性』だというのがワガハイの偏見。三原先生が知性によってある意味切り捨て、川原先生がモラトリアム的に封じ込め、明智先生がやや露悪的・偽悪的に提示した女性という資質の本質をさりげなく、だが印象的に表現なさっているのだと思う。やはり稀有な作家だ。さあ白泉社、年明けあたりに出してくれ。ワガハイこの記事に一時間かけたぞ。


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