まだ此処に戻ってこれる状態ではないけれど…私がこの目に映したものを、この場所に刻みたいと思う。
偶然か必然かわからない。だけど出逢ってしまった。
時間とか季節とか天気とか、全てが重なって私の目に映った景色。
深浦の冬花火。それを見終わった頃はすっかり藍染の空。新車でスムーズに加速するきつい坂道のカーブの途中。ガードレール越しに見つけたの。
上弦の月明かりが照らす海。潮が引いた岩場がキラキラと反射する。それはまるで何かのイラストやアニメーションみたい。リアルで見れるなんてちょっと感動。
『なんだか、人魚姫が泡になって消えた海に似てる…』
聞こえてきた台詞が意外だった。人魚姫が泡になった時、そんなに真っ暗だったっけ?
『だって、夜だったよ。人魚姫が泡になって消えたのは』
あぁ…そうだったかも。日没までに彼を……
そう、彼女はできなかった。
愛しくて。
ずっと笑っていて欲しくて。
彼の隣にいるのが自分じゃなくても…
幸せでいて欲しい。
そう願ったから。
一人占めしたい。
どんな形でもいいから彼の傍にいたい。
本当は…愛して欲しい。
私だけを。
溢れ出しそうな想いをぎゅっと抱きしめて。
彼女は夜の海に溶けていったんだ。
片割れの月。
一方通行の運命。
真実の愛に気づいた涙。
「もう…苦しいから。この心を溶かしたの…」
あぁ…私はまた相手の気持ちを考えなかったんだ。
自分の気持ちばかり押し付けた。
どうしてもその心が欲しくて。
ごめんなさい。
ありがとう。
逢いたい…
絶対泣かないよ。
ちゃんと笑うよ。
あなたがそう望むなら。
だから本当の気持ち、聞かせて欲しい…
どんなに美しい月の入江もまだ必要ない。
人魚姫にはまだなれないから…