【2014年11月07日10:29 3才】
秋もたけなわ。
乾いた風が涼やかに舞う園庭では、日々、運動会の練習にいそしむ園児達の明るい声がする。
そんな中、独り片隅で砂遊びにふける我がチビハル、先生に召し取られ お遊戯参加を促されるも、目の前に広がる大好物の砂を前に、そうそう練習に気分が向くはずもなく。
一歩進んではしゃがみ込み、一歩進んでは砂いじり…と、どんどん振り付けをマスターし、軽やかにステップを踏むクラスメイトの輪の中で、案の定、一人浮いているのが常であった。
工作の時間に制作した、運動会お遊戯用のウサギのお面と腕飾りも、作ったもののまるで興味を示さない。
練習時の装着は断固拒否、無理やりつけられれば即刻外してポイッと投げ捨て知らぬ顔。
仕方なく砂にまみれたウサギと腕飾りを持ち帰り、家でも地道に着ける練習に励んだのであるが、なかなかチビハルはそれを受け入れようとはしなかった。
そこで運動会を迎えるまでに、先生方とは話し合いを重ねた。
オープニングの入場行進は1番後ろから先生と手を繋いで入る事、リズム体操やお遊戯は一人の先生が付いて一緒に踊る事、チビハルが嫌がるようなら無理にはやらせない事、チビハルが楽しめるように練習からゆっくり促していく事、当日チビハルは園児席ではなく、1日通して家族と一緒の席に居る事…
そうして様々な事を取り決め、ようやく運動会本番を迎える事になったのである
「チビハルくん、かけっこは意外と速いんですよ!」
そう練習時の様子を先生から報告されていた20m走。
だが本番、ヨーイドンで背中を押されたチビハルはすぐに失速。あっという間にゴールに駆け込む他児の後ろで、レーン上に立ち止まったり歩いたりしているチビハルを、先生が迎えにやって来る。手を取られ一緒にゴールへと走る。その姿に園長先生がマイクで叫ぶ、
「チビハルくん頑張れ!チビハルくんもう少し!」温かい応援の声が重なる。
初めての運動会…
大層な人混み、スピーカーから大音量で流れる闘争心を掻き立てる音楽、会場は慣れた園庭ではなく、初めて踏み入れる近所の小学校グラウンド…
喧騒の中で矢継ぎ早に目の前で繰り広げられる運動会という光景に、チビハルが普段通りの精神状態で臨むのは…やはり難しいだろうと思う…
それでも走った…一生懸命走った…
立ち止まろうがビリだろうが、そんなのはどうでもいい
戸惑いの気持ちを抱え、頑張っている姿に…
ビデオ撮影の手は震え、駆けてゆく後ろ姿が滲んでぼやけた
だがそんな中 始まったお遊戯で、あれほど見向きもしなかったウサギを…
チビハルは頭に着けて入場してきた。手首にもしっかり飾りが巻かれている
お遊戯最中は、懸命にチビハルを盛り上げようとしてくれている先生の横で、しゃがみ込み砂いじりを始めてしまったりもするが、ウサギと腕飾りは最後まで外される事なく、チビハルの事を可愛く眩しく着飾らせ続けていた
そしてお遊戯のラストは、開いた両手を大きくあげたエンディングのポーズを、揃ってビシッとキメるのだが…
ふいに立ち上がったチビハルは、胸の前で小さくパッと両手を開き、独自のポーズで皆と一緒に、笑顔でラストをキメてみせたではないか!
………!!!!!
それだけで、もう充分だった
出来ない事ばかりに目が向いていた以前の私は消え去り、ほんの僅かな「出来た事」に…
これほどまでに感動出来る自分がそこにいた
前半部門、最後の出演種目は母子でのフォークダンスであった
この時ばかりは困惑の表情は影を潜め、ママに手を取られて笑顔を見せる
そんなチビハルを抱き寄せた時に…
その身体がやけに熱い事に気が付いた
元々風邪気味であり、また炎天下に長く居るとうつ熱を起こす体質でもあり…
チビハルは発熱していた
具合の悪い中、一生懸命走ったんだ…
具合の悪い中、無理させてしまったんだ…
ママの腕の中でボンヤリしているチビハルに胸が痛くなり…
もう充分過ぎるくらい頑張ったね…!
テントをたたみ、荷物を背負って、運動会後半を迎える事なく足早に帰路についた
…
運動会のビデオを観るのがお気に入りとなったチビハルは、今日もエンドレスでの再生を要求してくる
全てにおいて自信がない自閉っ子は、普段は出来る事でも、人前ではなかなかやる勇気が持てない
運動会当日は戸惑いの表情を浮かべ、僅かに身体を揺するのが精一杯のチビハルであったが、ビデオの前では、体操もお遊戯もパーフェクトに歌い踊っている
手足はしなやかに伸び、軽やかなジャンプと共に笑顔がこぼれる
楽しそうに…
嬉しそうに…
その姿は、今が運動会かと見まごうほどにキラキラと輝いていた
私は運動会と同じくらいの熱意を指先にこめながら、
その姿をファインダーにおさめていく