日本で働く外国人の平均勤続年数は3年以下といわれる。高度外国人材の多くはとても優秀だが、一方でこの離職率の高さがネックになると考える企業は多い。そこで今回は、外国人社員の早期離職を防ぐためのポイントについてお話ししていきたいと思う。
■日本人とは違う退職理由
一般に外国人材は、次のような不満を抱いた場合に会社を辞めるケースが多い。
① なんで自分を採用したのかわからない
② 職場の居心地が悪い
③ 将来のキャリアパスが見えない
① なんで自分を採用したのかわからない
いまだ年功序列を前提とした制度が残る日本企業では、20代のうちは下働きに徹するのが当たり前。これは外国人社員といえども例外ではない。入社してから数年は、重要な仕事を任される機会は少ないだろう。ただこうした状況は、彼ら、彼女らの不満をどんどん増幅させることになる。
とりわけ、外国人社員に日本人でもできる仕事をさせている場合は要注意だ。「なんで自分を採用したの?」と疑問を抱き、仕事へのモチベーションが下がってしまう可能性がある。そして、「日本人の代わりに、仕方なく自分を採用したのでは?」と感じるようなことがあれば、すぐに退職へのカウントダウンが始まるだろう。
② 職場の居心地が悪い
外国人社員がすぐに辞める職場は、「居心地の悪い場所」であることが多いもの。たとえば、彼ら彼女らが孤立してしまうような職場はその最たるものといえる。外国人の多くは、ただでさえ異国で寂しい思いをしている。会社で疎外感を味わうようなことがあれば、完全にやる気をなくしてしまうだろう。職場の居心地の良しあしは、会社に対する忠誠心にも影響してくるのだ。
③ 将来のキャリアパスが見えない
将来のキャリアパスが見えないことも、外国人社員の離職理由になる。多くの外国人社員は、自分がステップアップできる会社かどうかをとても気にする。そのため、「この会社にいても成長できない」と判断すれば、すぐに転職活動を始めるはずだ。「長くいれば良いことあるよ」なんてぼんやりとした将来像を示しても、彼ら彼女らの心にはほとんど響かないのだ。
では、こうした考えを持つ外国人社員の離職を防止するために、私たちはどう対処していけばいいのだろうか?
■対処法1 何を期待しているかを伝える
外国人社員には、会社が何を期待しているかを繰り返し伝えたほうがいい。「わが社にとって、あなたは不可欠」というメッセージを、本人にしっかり届けることが肝要だ。これによって、彼ら彼女らの会社に対する疑念が、一気に解消されるのは間違いない。
「あなたには、海外進出国との橋渡し役の役割を期待している」
「あなたには、日本人社員に刺激を与える役割を期待している」
「あなたには、日本人社員にはない発想力を期待している」
こんなふうに、会社が期待する役割について、本人に何度も繰り返し伝えてほしい。
外国人社員をつなぎとめるための現実解は、じつはかつてのウェットな日本的マネジメントにヒントがある。
「あなたはわが社に必要だ!」 「あなたの力を貸してほしい!」 「この会社で一緒に夢を実現しよう!」
こんな熱いメッセージを、常日頃から伝え続けることが鍵になるのだ。
■対処法2 孤独にさせない仕組みをつくる
「職場の居心地が悪い」と感じさせないためにも、外国人社員を孤独にさせない仕組みをつくることをおススメする。具体的には、次の2つの取り組みが有効である。
❶ 「私は重視されている」と感じさせる
孤独を感じさせないために、最初は誰かがつねに外国人社員をフォローする必要がある。頻繁に声をかけるだけでもかまわない。「私は重視されている」と感じさせることが肝要なのだ。
たとえば、「メンター制度」を導入するのも有効な一手になる。先輩社員をメンターに任命し、外国人社員の精神的なサポートをさせるのだ。該当者がいれば、メンターは同じ国籍の先輩社員から選んだほうがいい。母国語を話せる気安さもあり、外国人社員の孤独感が大きく軽減するのは間違いないからだ。
また、「重視されている」と感じさせるうえで、外国人社員向けの研修を実施するのも有効である。「会社が自分のためにお金をかけて教育してくれている」と感じれば、否が応でも会社へのロイヤリティは高まるはずだ。加えて、研修の学びによって本人の成長欲求が満たせるので、一石二鳥の効果が見込める。
❷ 社内のインフォーマルコミュニケーションに誘う
社内のインフォーマルコミュニケーションにも、外国人社員をどんどん誘ってあげたほうがいい。異国で寂しさを感じている外国人材の場合、少なくとも日本人の同世代よりは、こうした仕事外のコミュニケーションへの参加に積極的な人が多い。
・社内サークル
・イベント(カラオケ大会、ボーリング大会)
・飲み会(歓迎会、忘新年会)
・ホームパーティ
といった、インフォーマルコミュニケーションの場をたくさんつくり、ぜひ外国人社員を誘ってあげてほしい。
たとえばある企業では、外国人社員と日本人社員にペアを組ませ、互いの母国語を教えあうサークル活動を、定期的に行なっているという。日本人社員のグローバル意識が高まると同時に、外国人社員の孤独感も和らぐので、一挙両得の効果が見込めるそうだ。
■対処法3 本気なら「制度の変更」も検討していく
これから本格的に外国人社員を活用していくのであれば、制度の変更は不可避だろう。年功序列を前提とした旧来の制度を維持しているかぎり、有能な人材を長くとどめておくことは望めないからだ。
まず、年功要素はできるだけ排し、国籍や性別にとらわれない実力主義を導入するのが理想だ。頑張った人
が正しく評価される企業風土にする必要がある。そして理想を言えば、有能な外国人材を幹部に登用したいところだ。外国人が活躍するモデルケースがあれば、社内のキャリアパスの視界が大きく開けるからだ。
もし幹部への登用が難しいようなら、会社の命運を握る役割を外国人社員に担わせるだけでも効果がある。とにかく外国人社員が活躍しているモデルケースを、社内に一つでも多くつくったほうがいい。
たとえば、実際に行われているケースには次のようなものがある。
・外国人女性社員を、(日本人も含めて)初めての女性部長に登用し、重要プロジェクトを任せる
・外国人社員が働く作業現場のマネージャーに、以前その現場で働いていた外国人社員をあてる
・社長秘書に外国人社員を登用する
・働き方改革を検討する社長直轄のプロジェクトに、外国人社員を参画させる
こうした制度の変更は、なかなかすぐに実現するのは難しいかもしれない。既存の日本人社員を、逆差別することにもなりかねないからだ。ただ、外国人社員に長く活躍してもらおうと思えば、旧来の制度では限界があるのは明白である。ようはあなたの会社が、これからどのくらい本気で外国人材を活用していこうとしているのか。その本気度いかんで採るべき選択肢は変わってくる。そして、本格的に活用していくつもりなら、このくらい踏み込んだ制度の変更が必要なことは、肝に銘じておくべきだろう。