経団連の賃上げ方針、日銀総裁の評価が正常化時期探るヒントに | チェンマイにロングステイして

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2024年1月18日


コラム:経団連の賃上げ方針、日銀総裁の評価が正常化時期探るヒントに
金融政策のかじ取りの判断材料として日銀は今年の賃上げを重視しており、23日の会見で植田和男総裁(写真)が現時点でどのような認識を示すのか注目される。もし、積極的な評価であれば、3、4月のマイナス金利解除が意識される展開となるだろう。写真は都内の日銀本店で2023年12月撮影(2024年 ロイター/Issei Kato)

[東京 17日 ロイター] - 今年の春闘は、昨年の賃上げ率3.58%(連合調べ)を上回る可能性が高まっている。経団連は16日に「物価上昇に負けない賃金引上げ」が社会的責務と指摘し、平均で4%台の伸び確保を目指す姿勢をにじませた。金融政策のかじ取りの判断材料として日銀は今年の賃上げを重視しており、23日の会見で植田和男総裁が現時点でどのような認識を示すのか注目される。もし、積極的な評価であれば、3、4月のマイナス金利解除が意識される展開となるだろう。
<物価上昇に負けない賃上げ>
経団連が16日に公表した2024年の春季労使交渉に向けた経営側の基本スタンスを示す「経営労働政策特別委員会報告」(経労委報告)は、序文で「昨年以上の熱量と決意を持って、物価上昇に負けない賃金引き上げを目指すことが経団連・企業の社会的責務」だと指摘した。
23年の賃上げ率は3.58%だったが、このデータには約2%を占める定期昇給分が含まれる。定期昇給分はマクロ的には中立であるため、賃金の押し上げは1.58%前後となる。
ところが、実質賃金を試算する際に使用する「持ち家の帰属家賃を除く消費者物価総合」は23年1─11月に3.3%─5.1%で推移し、賃上げ分を上回って推移。実質賃金は23年11月の段階で20カ月連続のマイナスを記録している。
経団連は「物価上昇に負けない賃上げ」を打ち出しており、これを政府見通しの24年度物価見通し2.5%を前提に試算すると、平均で4.5%を超える賃上げを達成しないと「物価に負ける賃上げ」になりかねない。言い換えれば、経団連は加盟企業に4%後半から5%台の賃上げを求めていることが透けて見える。
<人手不足と潤沢な手持ち資金>
実際、一部の大手企業首脳は5%を超える賃上げや平均10%の引き上げをすでに表明。松屋フーズ(9887.T), opens new tabは4月1日から年収ベースで10.9%引き上げることを決めている。
深刻な人手不足を背景に、優秀な人材の確保が経営戦略上、最優先の課題になっている事情が企業側にはある。また、法人企業統計によると、23年7─9月期の利益剰余金は567兆円と同時期の名目国内総生産(GDP)595兆円にほぼ匹敵するほどの規模となっており、支払い能力の観点から障害がないことも企業の積極姿勢を後押ししている。
また、 岸田文雄首相は17日に「足元の物価高から国民生活を守り、物価上昇を上回る賃上げを必ず達成しなければならない」と述べ、経済界や労働団体の代表者と意見交換する「政労使会議」を開催する方向で調整していると語った。
筆者は3月中旬の大手企業による一斉回答を待たず、24年度の春闘における賃上げ率が昨年を上回るのは確実であるとみている。中小を含めた平均が物価上昇率を上回るのかどうかは不透明だが、大企業の平均では5%に近い賃上げとなるのではないか、と予想する。
<日銀が積極評価なら3、4月の政策修正も>
こうした情勢を注視してきたのは日銀だ。物価目標の2%を持続的・安定的に達成するためには、23年度を上回る賃上げの実現が極めて重要であると認識し、春闘の行方に目を凝らしてきた。23年度の上昇率が3.58%に跳ね上がるきっかけになったのが経労委報告だったことを踏まえ、今年も経労委報告での経団連の打ち出しによって、大きな流れが把握できる可能性があると判断していたと、事情を知る関係者は打ち明ける。
23日の金融政策決定会合後に会見する植田総裁が、春闘の行方に関してどのような判断を固めつつあるのか具体的な評価を示し、それが前向きな情勢判断であれば、2%目標のゴールに接近していると日銀がみていると解釈できるのではないか。
今回の会見における植田総裁の発言は、細かい表現を含めて、前回との差異にも着目する必要がある。
もし、23年度を上回る賃上げに「手応え」を感じていると表明するなら、マイナス金利解除の可能性は、一部の市場関係者が予想する6月会合以降ではなく、3月か4月の可能性が相応にあるとみるべきだろう。