香港「1国2制度」事実上終わる 全人代、選挙制度の見直し決定 | チェンマイにロングステイして

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中国の全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員会は30日、香港の選挙制度見直しに関する議案を全会一致で可決した。香港政府トップの行政長官と立法会(議会)議員の選挙で民主派を徹底排除する内容で、次回の選挙から導入される見通し。中国の習近平指導部による香港への統制強化は区切りを迎え、香港の高度な自治を認めた「1国2制度」は事実上、終わりを告げた形だ。

 全人代常務委は30日、2日間の日程を終えた。習指導部は、2019年に香港で政府への抗議デモが激化したことを受け、20年6月に香港国家安全維持法(国安法)を施行。香港の治安維持機能を手中に収め、民主派の活動を徹底的に取り締まった。今回の制度見直しで、当局が愛国者と認めた人物しか選挙に出馬できなくなり、政治も完全に統制下に置いたといえる。

 中国国営新華社通信によると、新制度では、共産党や政府の方針に従う愛国者であるのかを基準に、立候補の可否を審査する委員会を設ける。この際、香港に設置された「国家安全維持委員会」の意見も踏まえる。

 間接選挙である行政長官選で投票権を持つ「選挙委員会」の定数を1200から1500に増やし、増員する300は全て親中派組織に割り当てる。

民主派が優勢な区議枠(117)を廃止し、委員会の勢力図は親中派にとって極めて有利となる。

 更に立法会の定数を70から90に増やす。

新たな議席数の内訳は、全有権者が投票できる直接選挙枠(現行35)は20▽金融や商工業など業界団体の関係者や区議らに投票権がある職能選挙枠(同35)は30▽新設する選挙委員の枠は40――となる。民主派に有利とされてきた直接選挙枠が減らされたことにより、親中派が確実に多数を握る仕組みが完成した。

 香港基本法は、行政長官と立法会の全議員を「最終的に、普通選挙で選出する目標に至る」と明記している。全人代は基本法を1990年に可決していたが、香港住民に約束した内容をほごにした格好だ。欧米諸国が制度見直しへの批判を強めるのは必至とみられる。

 全人代は3月11日、香港の選挙制度を見直す「決定案」を可決していた。全人代常務委での法改正などは通常、可決までに複数回の審議が必要だが、例外的に1度で決着させるスピード改正となった。中国紙「環球時報」によると、香港政府は5月までに、新制度の実施に必要な条例改正を終える予定。

 行政長官選は来春に見込まれているが、立法会選は今回の選挙制度改正に伴い、今年9月から12月に延期される見通しとなった。

 一方で日本外務省の吉田朋之報道官は30日、「日本は重大な懸念を強めており、香港の高度の自治を大きく後退させるもので看過できない」との談話を発表した。

日本の懸念を中国に伝え、国際社会と連携して中国に対応を求める方針としている。【岡村崇、田所柳子】

「香港民主化の歩みは終わった」

倉田徹・立教大教授(中国・香港政治)

 1997年に香港が英国から中国に返還されて以来、民主派の運動の核心は、普通選挙の実現だった。今回の選挙制度の変更は、この目標に逆行する。香港民主化の歩みは終わったと言える。

 民主主義国の価値観では法律は人権を守り、公平で公正な社会を実現する役割を担う。

だが中国にとって、法律は中央政府を守るための武器だ。

2020年6月に施行された香港国家安全維持法(国安法)と、今回の選挙制度の変更は、民主派に対する強力な武器と言える。

 選挙の出馬資格を審査する制度が導入されれば、選挙という形だけは残るが、その内実は形骸化していく。

審査を通過し、当選して議員になった後も当局にチェックされ続ける。

政府を批判すれば「議員資格が無い」と判断され、失職することになるだろう。

民主派が多数を占めて議会を主導する事態は、もはや起こりえない。

 香港社会では中産階級、とりわけ教師や弁護士、メディアなどが民主派を支持してきた。

だが国安法の施行後、当局が香港独立派とみなした教師の教員免許を剥奪するなどの事案が起きている。民主派が議会から排除された後、こうした民主派支持層への圧力が更に強まることが懸念される。

 米国や欧州連合(EU)は中国への経済制裁を表明したが、中国側がすぐに欧米諸国の主張を受け入れるとは思えない。

 ただ、中国にも本音と建前がある。中国は「香港問題は外国勢力が中国の政治を混乱させるために起こしている」と繰り返し、強硬に対応してきた。

だが、国際社会との関係悪化が自国の利益にならないことは分かっているはずだ。

日本を含めた国際社会が長期的な視点に立って外圧をかけ続けることが重要だ。

【聞き手・岡村崇】