中小企業を経営していた父は、毎晩、家で晩酌をし
母はつきっきりで料理を出したり日本酒をお燗したりしていた。
最後には、ご飯とお味噌汁と、何か一品。
「少しでいい」と言うくせに
何度もお代わりを要求して、その度に母は立ったり座ったり
忙しく動き回っていた。
お味噌汁が熱すぎる、と母に怒鳴ることもあった。
お母さんてそういうものだと思っていた。
お父さんの言うことを聞く。
いつも家にいる。
美味しいごはんを作ってくれて洗濯をしてくれる。
友達とは出かけない。
お父さんが怒りはじめたら黙って怒られている。
子供は兄ふたり、私の3人。
お金には困っていなくて
持ち家があって、家族旅行もして、習い事もたくさんさせてもらった。
でも、私が何か相談しようとしたり、あるいは困らせる行動をとると
「そんなこと言ったらまたお父さんがすごく怒る」
「お父さんがいいって言ったら」
「私(母)がお父さんに叱られちゃうわ」といったことしか言ってくれなかった。
父が反対したとしても、私はいつも母の気持ちを知りたかった。
「お父さんが何て言うか分からないけど、お母さんはいいと思うよ」
一緒に説得してくれるまではいかなくても
せめて、こういう言葉をいつも待っていたと思う。
「お母さんはどう思ってるのかって聞いてるの!」と
泣きじゃくりながら叫んだこともあった。
母は困ったような顔で黙っていた。
「もう、わからない」と言われることもあった。
自分の意見は何も言わない、
でも父に怒られないためか、私を母のやり方で心配しての事なのか
私の振る舞いなどには過度に口を出すという母の態度がいつもさみしかったと思う。
中学生くらいになると、
「私は迷惑をかけている」
「お母さんは何も賛成してくれない」と思い込むようになった。
母にとって、私が「いい子」でいれば、後はなんでもいいのだと思った。