◎ エジンバラ ちろみ想定外の浄化の旅
ホグワーツ城を後にうっちこっちファミリーが向かうのは第19カ国目スコットランド。
スコットランドと言えば、スコッチウィスキー!
そしてもうひとつ。バグパイプの存在を忘れてはいけない。
昭和のアニメ『キャンディキャンディ』で丘の上の王子様が吹いていたあのバグパイプである。
泣いていたキャンディが『かたつむりの団体が這ってるみたいな音ね!』と笑ったバグパイプの音色。お陰で『君は泣いている顔より笑ってる顔の方が可愛いよ!』と丘の上の王子様の名台詞が飛び出したバグパイプ。
台詞はさておき、ちろみとバグパイプとの出逢いは『キャンディキャンディ』であった。
それからだいぶ大人になり、多分テレビなどで流れていたのか?数回聴いたことのあるバグパイプのある一曲。その曲はちろみの心を激しく揺さぶる。胸がキューっと切なく悲しく苦しくなり、目頭を熱くする。そして寂しげで寒そうな草原の丘が続く光景が浮かんでくるのだ。。忘れられないあの曲。
なんなんだ!一体この現象はなんなんだ!
その謎を解明するべく、ちろみはスコットランドへと立ち向かうのだった。
その曲を是非生で聴いてやるのだ!
切なる願いを胸にエジンバラへのバスに揺られる。
窓の外には草原の丘の光景が広がる。
やはりちろみはこの辺りに生息していた時代があったに違いない。。差し当り、愛する人と結ばれず、草原の丘の上で泣き崩れる悲劇の姫(?)ちろみ。愛する人との思い出のあの曲が耳にこだまする。。辺りかな。と密かに簡略的妄想をして楽しむ。
噂によると、エジンバラの町にはバグパイプ弾きのおじさんが所々で演奏しているらしい。日本で暮らすちろみの耳に入ってくるような曲なので、きっと有名な人気の曲に違いない。多分弾いてくれるであろう。
しかしスコットランド滞在時間はおよそ28時間。
食事や睡眠時間を省くと町をぶらつける時間はマックス16時間程。ミッション遂行には十分だろう。。ところで、子ども達はちろみのミッションにあまり興味がなさそうだ。まぁ妄想癖のお付き合いだし、致し方ない。。
エジンバラのバスターミナルから長い坂を上ると旧市街となっている。
センター付近には古くて立派な教会がどっしりと建っていた。それにしてもイギリスとスコットランドの古い建物はどこか怖さを感じる。
ここへ来るまでに一人のバグパイプ弾きに遭遇。立ち止まってしばらく聴いていたが残念ながらあの曲を弾くことはなかった。
タイトルが分かればリクエストも出来るだろうが、タイトルが分からない。鼻歌を歌いリクエストするという方法もあるのだが。
ちろみの求めるは、あくまでも偶然に、耳に入ってきちゃった。振り向けば丘の上の王子様がバグパイプを弾いている。ちろみの頬に涙がつたう。。というドラマチックレインな展開なのだ。
なので、バグパイプ弾きの前で立ち止まってしばらく聴くなんてことは、正直なところ邪道なのである。
ところが、想像していたよりバグパイプ弾きがいない。。ちとマズいんじゃね?。。ワガママ言って余裕かましてる場合じゃないんじゃね?
古い建物が並ぶ城下町。建物と建物の間には一本一本に名の付いた細い通路がある。
教会前ではバグパイプとエレキギターという斬新なユニットが演奏をしていた。アップテンポで情熱的で力のこもった素晴らしい演奏は沢山の人々に囲まれ、拍手喝采を浴びる!
うっちこっちファミリーもそれに聞き惚れ、リズムを取り、拍手とエールを送る!
翌日の夜、バーでライブをするそうだったが、我々はタイムオーバーの時間。。これには子ども達もがっかりだった。
バグパイプ界も新たなセッション、新たな息吹が吹き込まれているようである!また何処かで是非聴きたい!
宿に荷物を置き、スーパーで夕飯の食材を調達。
それにしてもバグパイプ弾きがいない。。噂に聞いた町のバグパイプ弾きはどこへ行ってしまったのか?ちろみの目論みはまんまと暗礁に乗り上げそうだ。。
それが関係してるかは定かではないが、ちろみのご機嫌が徐々に悪くなる。うっちこっちにピリピリとした緊張感が走る。
夕飯メニューでとちあきと軽くぶつかり、お互いに気分を害し、バッドエアが漂う。。が、機嫌を取り戻そうとセルフコントロールのちろみと愛妻に気を使うとちあき。どこかぎこちない夫婦は一緒に夕飯作りに精を出す。
徐々に復活する夫婦関係。あーよかったね。と食後の一服に部屋を出て、建物の外階段の踊り場へ向かう夫妻。タバコに火を付けたところにおばちゃん4人組が現れた。
スウェーデンから遊びにきた主婦グループだということだった。
そんな中、ちろみが気になるのは、ずっと視界に入っている一人の奥様からの強い視線だった。目を合わせないようにしているが、その視線が怖い。恐る恐る見ると目が合った。相手は目をそらさない。微動だにしない視線。怖い。突然、物凄い恐怖心に襲われるちろみ。
この場を離れたい。灰皿にタバコを突っ込み、ドアを開けた。とちあきは奥様方に挨拶をし、続いてドアの中に。
怯えるちろみは血の気が引いてゆく。段々と意識が遠のいて、階段を上ろうとしたところでちろみまさかの気絶。とちあきに担がれて部屋のベッドに寝かされた。
朦朧とする意識。
恐怖と寒さと身体の重さに襲われる。
怖い。寒い。怖い。寒い。。。。いつの間にか眠っていた。
汗びっちょりで目覚める。
隣にリコが寝ていてくれた。心がホッとする。
暖房を付けてくれたらしく、部屋の窓は水蒸気で曇っていた。
身体はむくんで、爪と肉の間が割れそうに痛い。
隣の部屋でとちあきとソウマが寝ていた。
家族の姿を見て安堵感が込み上げる。
リビングへ行き、時計を見ると1時過ぎ。
クタクタに疲れていた。窓を開け夜風に当たる。
それにしても怖かった。こんな経験は初めてだ。
一体何が起こったのだろう。。
ちろみの頭に『魔女狩り』というワードが浮かぶ。
簡略的妄想は『悲劇の姫』から『魔女狩り』へとローリング。
ちろみは中学生の頃から、痛そうなものを見ると気絶するという特技を持っている。友達が指先を切り血吹雪が舞ったのを見て気絶したのが始まりだった。その後、歯科医院のバイトで注射を打つのを見た時。ソウマが指を深くケガして血が溢れているのを見た時。他数回。
これは拷問の記憶からくるものだとしたら腑に落ちる。
もしかしたら、全く逆でちろみが魔女を拷問をしていたかも知れないが。。だいぶ血なまぐさい妄想へ展開してしまったのだった。
もしそうだとしたら、今のちろみにできること。
それは もう大丈夫。今は家族と幸せに暮らしていて、恐ろしい恐怖の体験はもう終わっている。安心していいんだよ。と自分を抱きしめること。浄化だ。
バグパイプのあの曲を追い求め訪問したスコットランドで、こんな想定外の浄化が起こるとは。。
スウェーデンの奥様はただ普通にちろみを見ていただけかも知れないが、ちろみのスウィッチが入ってしまったのだろう。これも必要だから起きたこと。。
翌朝、チェックアウトしてからバスの出発時刻までタイムリミットは10時間。あの曲は聴けるだろうか。
センターにあるセント・ジャイルズ大聖堂に向かううっちこっち。
大聖堂でちろみは猛烈に祈った。隣でリコも熱心に祈ってくれていた。
もう大丈夫。きっと浄化されたはず。
ただの妄想かも知れないが。。
調子が整い、エジンバラ城へ向かうことに。
道中、旧市街博物館のようなものがあり立ち寄ってみる。
情報によるとその昔、旧市街はトイレの汚物を窓から道に投げ捨てていたそうだ。道は汚物だらけで大変汚く臭かったらしい。。そりゃそうだよね!
次に出てきたのは、マジックミラーミュージアム。
エジンバラ城に到着。
しかし大々的な修繕工事中。
さくっと散歩して退散。
まだ時間はたっぷりある。
我々は小さな町をうろうろとさまよい歩き始めるのだった。。
町には『WITCH SHOP』なるものが数件あった。
きっとここには偉大な話から悲劇まで色々な魔女伝説があるのだろうな。。魔女の歴史は調べたことないけど、魔女狩りは権力の下、残酷でむごい悲劇が数多くあったということは知っている。
いつの時代もはみ出しているもの、弱いもの、支配に染まらないものへの悲劇は続いている。時の権力により、重宝されたり、都合よく使われたり、異端とされたり、悪とされたり、迫害され殺されたり。
そんな悲しい歴史が一刻も早く終わるように。
平和な世界になるように、我々は本気を出す時なのだと思う。
まずは自分自身が幸せになることが大切だと思うのだ。それだけで地球が元気になってゆく。それだけで平和へ貢献しているのだ。
一人一人が心身共に健やかな人生にしてゆくことが何より大切だと思うのだ。
新しいショップが立ち並ぶ通りは明るくてかわいらしかった。
坂を下りた広場でひと休み。
それにしても、バグパイプ弾きに遭遇しない。。
町の主要部を歩き回り、暇を持て余すうっちこっち。
仕方がないので、父のヘアスタイル研究を始める子ども達。
やはりこれに落ち着いた。
夕暮れが迫り、タイムリミットまで数時間。。
もう町を歩くのは飽きてしまったよ。。
荷物を置いている宿へ戻るためセンターへと歩き出す。
これが町散策の最後になるだろう。。。
しかし、バグパイプ弾きはいなかった。
クタクタな我々はバスの時刻までお茶をして過ごすことに。
残念ながらちろみの心を揺るがすあの曲は聴くことができないようだ。とちあき、リコ、ソウマ、みんな文句も言わず沢山歩いてくれてありがとう。やり切ったし、仕方がないね。
想定外に重たい魔女時代の浄化ができたことだし十分だ。
バス出発時刻に合わせてカフェを出て、坂を下ろうとした、その時だった。
後ろから聴こえてきたバグパイプの音色。あの曲。
ちろみは振り返る。
少し離れた建物の前でバグパイプ弾きが演奏していた。
最後の最後にやってくれるとは、、、これぞまさにドラマチックレイン!!!
そしてちろみの耳に優しく響くあの曲は、不思議と悲しく苦しく切なくならなかったのだった。。
目頭熱くなったのは感動の涙だったのである。
ミッションコンプリート。
ちろみはちろみの丘の上の王子様とツーショット記念撮影。
タイトルを聞くと『勇敢なるスコットランド』という国歌扱いされている名曲だそうだ。
短かかったが濃厚な一日半。想定外に深い体験となったスコットランド。
家族が一緒だったから、今は幸せの中にいるから、安心して過ごせた。とちあき、リコ、ソウマ、最後までどうもありがとう。一緒にいてくれて本当にありがとう。
悲しみのあの曲は今や大好きな思い出の曲となっている。こうしてちろみの大浄化祭りは終わりを告げたのだった。
天に感謝。宇宙に感謝。家族に感謝。
ドラマチックな人生は疲れるので、近年はあまりドラマチックな想像はしないように注意をしているちろみである。
つづく