彼は背を向け立ち去ろうとしている私の後を辿る様に追いかけ


店に並べてあるものを手に取っては「持っていきなさい」と話しかける


その度に振り向いては笑いながら「ありがとう」とお礼を言った


それに気をよくするのか


振り向き受け取るのを確認してなのか


「あっちにあるのは新作ですごく美味しくて珍しいんだよ」と


少し遠くにあるそれを手にとって呼び止める


「義父さん冷蔵庫に入りきらないし、食べきれないから」


私は苦笑するが彼は聞いた様子も無く袋に詰める




そんなやりとりをするうちに停めてあった車に辿り付きドアを開けた


彼は私に足を引きずりながら駆け寄り


両手に大きな袋を渡した


なんだかくすぐったかった


いつも羨ましかった光景が


多分この時自分にあったからなのだろう


彼は私をとても可愛がってくれていた


彼の実子が僻む位


他の義子が僻む位


彼は私の名を他の何倍も呼んでいたし


微笑んでいた




そんな彼に私は菓子折りではなくて


他の包みを渡していた


包みの中身は涼しげなパジャマであった


有名なお菓子を買うのに立ち寄った大型店舗で


父の日フェアをやっていたため目についた


私に父の日等縁の無いものと思っていたが


遠い記憶に昔彼に贈った事を思い出したのだ


そして夫の生前実家に泊まった際


義父の大きなパジャマを着ておどけた時に


「ぶかぶかだ」とか「臭いでしょう」とか


皆で大笑いした事を思い出したのだ




そんなこと到底彼は覚えていないでしょう


私にはそれが一家団欒の全てだったのに


思い出さない様にしていた




望んでも望んでも


手に入れられないから




辛かった




だから彼に会いに来れなかった





生まれた処へ帰ってきた


生まれた処は育った処


なのだが「故郷」と表現してよいのかといつも悩む


このモヤモヤを辞書で調べてみた


故郷:生まれ育った土地


辞書通りに解釈すればやはり私の帰った処は故郷である




今回は去年やいつもと違うルートを選択


高速を使わずに山を走り峠を越える


途中小さな町に立ち寄りとある店を訪ねる


「あの・・・店長さんは居ますか?」


残念ながら不在


小さな菓子箱を預けると名を尋ねられた


名乗ってわかるであろうか?


訪ねたのは久々であった


「かっちゃんの・・・嫁です」


そう伝えて店を出た





更に車を走らせ隣合った小さな町へ


そこで初老の男性を訪ねやはり店に入る


彼は私をすぐには解らなかったが


名乗ると目を細めて微笑み


彼の思いつく全ての言葉で歓迎の意を表してくれた


彼は彼の近況を息もつかずに話してくれた


去年病気で倒れて数ヶ月入院したこと


今も通院はかかせないこと


孫が大きく育ったこと


息子や娘達が元気であること


次から次から話は止まることがなかった


ひと通り話すとまた同じ話を繰り返すのだった


私は笑って頷いていたがとうとう


「義父さんそろそろ行かないとお墓参りできなくなっちゃう」


と遮った


彼は渋々と話を止めたが思い出した様に


「千夜はどうしてるんだい?」


と訪ねてきた


私は相変わらず一人で夫も子供も居ないと


苦笑しながら簡単に話し立ち上がった







アカリ 仕方ない買い物を済ませようと


足早に歩く


街並みにも天候にも


温度にも風にも


さして気にとめずに歩く


だがしかし


それにだけ足を止めた






音にだけ





shopから流れる Cyndi Lauper


決して主張しない穏やかなBGMが


私の足を止めた





古くて懐かしくて


声は掠れていて


必死に訴えていた





馬鹿でどうしようもなくて


酷い私だけれど


認めて欲しいの


どうか理解して欲しい





彼女の掠れた声は


私をここに引き戻した





ただいま


私の Solitude







Photo by すけ "アカリ "