逃れた夫が通路を挟んだ隣に座っている
私の手はじっとり汗を握っていたが
考える猶予は無いことだけは確かであった
私は意を決して怪我人に顔を近づける
声の高い私がトーンを落として囁く
「私が逃げてきた夫が・・・とてもそばに居て危険なの」
怪我人は 『!?』 という顔をしているが
私に離婚暦があることやストーカーの被害にあった事があるのは
以前に話した事があったためか
私の表情を受け止めている様であった
「話は後にして・・・とりあえず此処を離れなくちゃいけないの」
そういうと私は身を硬くして右側を向いたまま立ち上がり
フロアの物陰へと移動した
怪我人は私の顔色で事の大きさを察知して静かに後を追ってきた
フロアの隅に入り組んだ場所があり
そこはレントゲンの待合所であった
午後なので患者は殆ど無く空いていた
私がそこに座ると怪我人もそこに座る
わたしは2度目の結婚の経緯を手短に話す
「それで連絡先も第三者を通すこととして・・・逃れた夫だったの」
怪我人は申し訳なさ気に私の帰宅を提案したが
私は病院に勤務している身
夫が名前を呼ばれている順からして
レントゲン付近に近づかない事は把握できていた
「私は油断さえしなければ此処で見つからない自信があるから・・・
だけど此処だと診療順のアナウンスを聞き逃しそうだから
悪いけれど一人でロビーに戻ってくれない?」
怪我人は頷き待合ロビーに戻る
私は夫が知るはずのない眼鏡をかけ
ひたすら俯いた
夫は私が眼鏡をかける事があるなんて
想像もつかないだろうから・・・
どれ位時間が経ったであろうか
とてつもなく長い時間に思えたが
多分1時間位の経過
私は怪我人と元夫の名前を聞き逃す訳にはいかなかったが
どちらの名前も呼ばれる事が無く
不安になった私は・・・そっと待合室のフロアを覗いた
「・・・!!」
元夫と・・・
怪我人の彼は
同じ椅子に隣り合わせて腰掛けていた
怪我人はすべて理解して
そこに座って居ることは・・・瞬時に察知できた
・・・つづく