二人が互いを必要とする様になるには


それ程時間はかからなかった


お互い忙しかったが


寝る時間など必要なかった


時間が許す限り他愛無く遊び


気を失うように寝て・・・


そんな繰り返しだった






何度か食事をしたりお酒を飲んだりしていたが


初めてのデートは函館へのドライブだった


北海道は広く最も南の方に位置する函館は最果てであった


当時高速道路も通っていない道を数百キロ


ひたすらドライブする


途中大沼国立公園に寄り散歩


彼ははしゃぎおどけていた


季節は秋で風もなく涼しい空気が澄んでいて気持ちの良い午後


彼は白いセーターを着ていた


2人で公園の喫茶店に入り窓辺の席でコーヒーを飲む


ひだまりの中の彼は眩しいのか下をうつむいていて


時々顔を上げては私を見てはにかんでいた





函館に到着した頃は短い日もすっかり暮れていて


彼は私を夜景を観に行こうと誘う


観光客で溢れかえる山頂で彼は子供の様に喜んでいた


「すみませ~ん!ボクの彼女と写真を撮って下さい!」


彼はそう言って私を背中から抱いた


シャッターを頼んだ人に冷やかされ喜ぶ彼





私は・・・口をぽかんと開けて


ぼーっとしてしまう


小さな頃から親に抱かれることも無く


手を引かれた記憶さえあまり無い


最初に愛した男には恥かしいから離れて歩けと・・・


『私と一緒に居てこんなに嬉しいと思ってくれる人が居るんだ』


そう思った


世の中それが普通だっていうことは理解していたけど


それが自分にもあるんだってことを考えもしなかったというか


そうやって抱かれて


『ああ・・・自分にはこれが無かったんだ』って


その時初めて自覚した感覚だった






海 その夜私達は海沿いの温泉に泊まった


ベランダは海に面していて窓を開けると波の音が聴こえる


沖の漁船が漁火を灯し


その光はゆらゆらと瞬いて


わたしはじーっとそれを見ていた


夜風は冷たかったがお酒でほてった体には心地よく


ベランダで潮風にあたりたくなった


冷たい風に思わず首をすくめると


彼はまた肩を抱いてくれた


私が寒くないように・・・





翌日終日観光をして帰り


出来上がった写真には


はしゃいでおどける彼の姿と


彼女を背中から抱き満面の笑みのカップルと


夢の様な出来事にとまどった顔をして


薄笑の私が居た





その時は私の知らない部分の彼が


私の考えている様な人間ではないなんて


思ってもみなくて


ただただ


幸せだった


・・・今思うと


幸せだった







・・・つづく