ツクヨミ 神話での記述

 


記紀(古事記日本書紀)において、ツクヨミは伊弉諾尊(伊邪那伎命・いざなぎ)によって生み出されたとされる。を神格化した、夜を統べる神であると考えられているが、異説もある。天照大神(天照大御神・あまてらす)の弟神にあたり、須佐之男(建速須佐之男命・たけはやすさのお)の兄神にあた

 


ツクヨミは、月の神とされている。しかしその神格については文献によって相違がある。古事記ではイザナギが黄泉国から逃げ帰って禊(みそぎ)をした時に右目から生まれたとされ、もう片方の目から生まれた天照大神、鼻から生まれた須佐之男とともに重大な三神(三柱の貴子。みはしらのうずのみこ)を成す。一方、日本書紀ではイザナギと伊弉冉尊(伊耶那美・イザナミ)の間に生まれたという話、右手に持った白銅鏡から成り出でたとする話もある。また、彼らの支配領域も天や海など一定しない。

 


ツクヨミは太陽を象徴する天照大神と対になって誕生する。この成り立ちは比較神話学の分野では、各国の神話にも見られると指摘できる。例えばシベリアのナナイ族の太陽の娘と月の息子、イヌイット神話のマリナイガルク北欧神話の姉ソールと弟マーニ、台湾の太陽の女と月の男(夫婦)、中国盤古(ばんこ)伝説には盤古が死してその左眼が太陽に右目が月になったという起源譚がある。

 


日本神話において、ツクヨミは古事記・日本書紀の神話にはあまり登場せず、全般的に活躍に乏しい。わずかに日本書紀・第五段第十一の一書で、穀物の起源として語られるぐらいである。これはアマテラスとスサノオという対照的な性格を持った神の間に静かなる存在を置くことでバランスをとっているとする説がある。同様の構造は、高皇産霊神(高御産巣日神・たかみむすび)と神皇産霊尊(神産巣日神・かみむすび)に対する天之御中主神(あめのみなかぬし)、火折尊(火遠理命(ほおり)・山幸彦(やまさちひこ))と火照命(ほでり・海幸彦)に対する火酢芹命(火須勢理命・ほすせり)などにも見られる。

 


ツクヨミの管掌は、古事記や日本書紀の神話において、日神たるアマテラスは「天」あるいは「高天原」を支配することでほぼ「天上」に統一されているのに対し、古事記では「夜の食国」(よるのおすくに)、日本書紀では「日に配(なら)べて天上」を支配する話がある一方で、「夜の食国」や「滄海原の潮の八百重」(あおうなはら  しお  やおえ)の支配を命じられている箇所もある。この支配領域の不安定ぶりはアマテラスとツクヨミの神話に後からスサノオが挿入されたためではないかと考えられている。



ツクヨミはスサノオと支配領域やエピソードが重なることから、一部では同一神説を唱える者がいる。