ナキサワメ 泣沢女神の誕生
国産み・神産みにおいてイザナギ(伊邪那岐)イザナミ(伊邪那美)との間に日本国土を形づくる数多の子を儲ける。その途中、イザナミが火の神であるカグツチ(迦具土神)を産むと陰部に火傷を負って亡くなる。「愛しい私の妻を、ただ一人の子に代えようとは思いもしなかった」とイザナギが云って、イザナミの枕元に這い臥し、足元に這い臥して泣き悲しんだ時、その御涙から成り出でた神は、香具山(かぐやま)のふもとの丘の上、木の下におられる。この神がナキサワメ(泣沢女神)である。
泣沢女神と井戸
畝尾都多本神社(うねおつたもとじんじゃ)に泣沢(なきさわ)という井戸があり、その井戸がご神体として祀られている。この事から、大和三山(やまとさんざん)の一つである香具山の麓の畝傍から湧き出る井戸の神様ということになる。井戸の中には、ナキサワメが流した御涙があるといわれている。その井戸には、和歌が残っている。
哭沢の 神社に神酒すゑ 祷折れども わご大君は高日知らしぬ
(泣沢神社の女神に神酒を捧げて、薨じられた皇子の延命を祈っているのに、皇子はついに天を治めになってしまわれた。)
これは、マツクマオオキミ(松隈女王)が再生の神に神酒を捧げ祈ったのに、タケチノミコ(高市皇子)は蘇ることなかったという、ナキサワメを恨む和歌である。