田の神 山の神信仰や他神との結びつき 春秋去来の伝承
山の神信仰は、古くより、狩猟や焼畑耕作、炭焼き、杣(そま。木材の伐採)や木挽(こびき。製材)、木地師(きじし。木器製作)、鉱山関係者など、おもに山で暮らす人々によって、それぞれの生業に応じた独特の信仰や宗教的な行為が形成され伝承されてきた。
いっぽう、稲作農耕民の間には山の神が春の稲作開始時期になると家や里へ下って田の神となり、田仕事にたずさわる農民の作業を見守り、稲作の順調な推移を助けて豊作をもたらすとする信仰があった。これを、田の神・山の神の春秋去来の伝承といい、全国各地に広くみられる。ただし、去来する神が山の神や田の神として明確に特定されないケースも多い。
たとえば、新潟県村上市中継の民俗事例では、3月16日に田の神が天竺よりやって来て家に降りるとされる。つづいて4月16日には家から田に出て行き、10月16日には再度家に戻るといわれ、これらの日にはぼた餅をえびす(恵比寿)に供える儀礼をおこない、11月16日には田の神は再び天竺に還るとされた。田の神は、一年かけて天竺・家・田を循環するわけであり、この動きは、ほぼ一年の稲作過程と重なり合うのである。
このように、去来伝承には田の神が家を媒介として去来するという伝承も多く、それには、
1 田から家へ帰る
2 家から田へ出て行く
3 山から家へ降りてくる
4 家から山へ帰る
5 家と田とを去来する
6 去来せず留守神となる
などのパターンがあり、上述の山北町の事例のように、去来する先として天竺などの異空間が加わることがある。
奥能登(石川県)に今日まで伝わる民俗行事アエノコト(国の重要無形民俗文化財)も、秋の収穫後(12月5日、もと11月5日)に、田から家へ田の神を迎えて饗応(きょうおう=アエ)をする行事である。かつては、春先(2月9日、もと1月9日)に家から田へ田の神を送り出す行事もあった。