ウマシアシカビヒコヂ
ウマシアシカビヒコヂは、日本神話に登場する神。天地開闢において現れた別天津神(ことあまつかみ)の一柱である。『古事記』では宇摩志阿斯訶備比古遅神、『日本書紀』では可美葦牙彦舅尊と表記する。
『古事記』では、造化三神が現れた後、まだ地上世界が水に浮かぶ脂のようで、クラゲのように混沌と漂っていたときに、葦が芽を吹くように萌え伸びるものによって成った神としている。すなわち4番目の神である。『日本書紀』本文には書かれていない。第2・第3の一書では最初に現れた神、第6の一書では天之常立神(あめのとこたちのかみ)に次ぐ2番目に現れた神としている。独神(ひとりがみ)であり、すぐに身を隠したとあるだけで事績は書かれておらず、これ以降、日本神話には登場しない。
神名の「ウマシ」は「うまし国」などというのと同じで良いものを意味する美称である。「アシ」は葦(あし)、「カビ」は黴(かび)と同源で、醗酵するもの、芽吹くものを意味する。ここでは「アシカビ」で「葦の芽」のことになる。すなわち、葦の芽に象徴される万物の生命力を神格化した神である。一般的に活力を司る神とされる。
「ヒコヂ」は男性を表す語句であるが、この神は独り神であり性別を持たない。葦が芽吹く力強さから、中国から伝わった陰陽思想の影響により「陽の神」とみなされ、「ヒコ」という男性を表す言葉が神名に入ったものと考えられる。「ヒコヂ」は「コヒジ」(泥)の文字顚倒という説もある。
出雲大社(いずもたいしゃ/いずもおおやしろ。島根県出雲市)本殿御客座(おきゃくざ)、浮嶋神社(うきしまじんじゃ。愛媛県東温市)などに祀られている。
備考
『古事記』には表記されていないが、『日本書紀』の一書には、「泥(ひぢ)の中に生(おおい)でるがごとし。すなわち人(かみ)と化成(な)る」とあり、人を神と訓読みさせている。谷川健一(たにがわ けんいち)によれば、最初は「ひとつの物」であったものが、人の形を備えた時、カミと呼ばれることになり、それにふさわしい名前が与えられたものとする。