九頭竜伝承 阿蘇山 宝池の九頭竜神 

 

 

そのとき天空の高みより声があった。「我は、汝が修法を施した事に対して、汝が妙に思うとも種々の身に形を現した。(女性が汝の身体に良かれと思って衣をかけようとしたのと同様に)真実の正しい身体というものには、極楽世界では阿弥陀と言う衣を被っている。この娑婆世界では十一面観音という衣を被っている。再び(阿蘇に)登り 重ねて御嶽を拝すべし 宝の身体(躰)を」と仰るのだった。

 

 

臥験は、ただちに御岳に登る。また、天空より声がして言う。「汝の修法によって楽々示された種々の身形を観ても、眼根・心根に障りがあるから本地を見抜くことが出来ないのだ」と。臥験は、その場に重ねて座し印を結び凝らしてただ無性に懺悔の意を尽くした。

 

 

「霊峯の頂で十一面観自在尊が千の葉の蓮花に坐し 自ずから放たれる大光明に臥験が照らされたあの瞬間、かの光明は十方世界を遍く照らし、三十二相八十種好を具足奉る金色相(こんじきそう)と一つとなり音楽・芸術・美を司る畢婆迦羅(ひばから)の神の身体そのものとなっていた。先ず現れた鷹の身のことを言うと、是は霊山において会い法華経が説かれる時の同聞衆の身形である。次に示された俗な身形を示した者、是は健磐龍命(タケイワタツノミコト、阿蘇大明神)なり。次に僧の身形を示した者、是は比叡山座主 良源(りょうげん。912年 - 985年)、次に現れた龍身は、この宝池の主として契りの無い池の大龍なり。最後に現れた十一面観音が当山の峯に常に住まわれる本尊で、大慈大悲の大御心で衆生に利益を与えんとする実体なり。汝の眼に罪障があるから実体を見ぬくことが出来なかったのだ。」

 

 

臥験は心から歓喜踊躍し礼の意を表して、その場を去った。九頭の龍から若い女性、そして天空からの声として現れた此の大龍者こそ、法華経に説かれている同聞衆、娑伽羅龍王(さがらりゅうおう)、阿那婆達多羅龍王(あなばだったりゅうおう)第三王子である。是すなわち十一面観音の化身である。