熊野本宮大社例大祭 一年の豊穣を祈る祭り
熊野本宮大社の例大祭は、一年の豊穣を願う祭りであると解される。
例大祭の中心である御田祭(おんださい)は、熊野牟須美神の神霊が移された神輿が、大社 - 真奈井社(まないしゃ、末社) - 大斎原(おおゆのはら。本宮大社旧社地) - 大社と渡御するという構造を備えており、渡御の都度、稚児に神霊を降臨せしめる神事(八撥神事。やさばきしんじ)を行う。神輿が最初に渡御する真奈井社は、天照大神と素戔嗚尊が誓約をした場所であると伝えられる(『古事記』『日本書紀』)。加えて、前日の湯登神事(ゆのぼりしんじ)が、山を越えて御子神(家津美御子神。けつみみこのかみ)が真奈井社に籠もる過程としての意味を持つことや、真奈井社にある井戸の水が子神を生み出す呪力の源と解されていること、さらに熊野牟須美神の神名にある「牟須美」すなわち「結」(ムスビ)が産霊を意味することを併せて考えると、真奈井社は産出力や生成産育に関わる呪力の源としても意味を持つと考えられる。こうした産出力に関する呪力が顕現する場が大斎原であり、実りの予兆である花が重要な役割を持つことや、予祝儀礼としての意味を持つ田植舞が演じられることもこうした大斎原のもつ呪術的な意義から理解される。本宮の主祭神で素戔男尊に擬される家津御子大神(けつみみこおおかみ)もまた、その名にあるケツミが「食つ霊」と見られることから、五穀の収穫を支配する農業神としての性格を持っており、那智や新宮の例大祭と同じく、本宮の例大祭もまた農業神事として性格付けられるのである。