扇祭 祭礼次第 例大祭(7月14日)
例大祭の祭礼は、礼殿で開始される。早朝に扇神輿を礼殿前に飾り立て、本社大前の儀に続いて、大和舞・田楽舞(那智の田楽)・田植舞が奉納される。大和舞は稚児の舞で、田植舞は田遊びの伝統を伝えるものと考えられている。
午後からは扇神輿渡御式(おうぎみこしとぎょしき)である。礼殿にて発輿式(はつよしき)を行った後、宮司以下、祭りの執行に当たる祭員全員が扇神輿を拝し、神霊を扇神輿に迎える。次いで、大滝に向かって3度「ザアザアホウ」と閧声(ときのこえ)をあげ、礼殿内では大太鼓を連打する。
五十続松(いそつぎまつ)と呼ばれる小型の松明(たいまつ)を携えた子ノ使(ねのつかい)を先頭に、前駆神職、伶人、馬扇、12本の大松明、神役、扇神輿、随員が礼殿前を出発する。扇神輿の担い手は扇指し(おうぎさし)と呼ばれ、かつて社領であった山麓の市野々集落の人々が務める。扇神輿は幾度か伏せられたり立てられたりしながら前進し、大社と大滝との中間にあり、かつての拝所跡地とされている「伏拝」(ふくはい)と呼ばれる場所ですべての扇神輿を直立させる。扇神輿が立てられる都度、行列の祭員らは拍手をして褒める(「扇立て」)。
その後、伏拝に扇神輿と扇神輿の神役を残し、宮司以下の祭員は大松明とともに、御滝本(みたきもと。飛瀧神社(ひろうじんじゃ))へ下る。御滝本では時刻を見計らって伏拝に向かって「ザアザアホウ」と閧声をあげ、大太鼓が連打される。御滝本から伏拝へ使者が送られ、使者の到着に応じて、伏せられた扇神輿が大滝参道鳥居の内に進む。鳥居をくぐると、扇が再び立てられる。御滝本の火所(いろり)ではこの間に松明に火が点けられ、順次出発して石段を上ってゆく。この頃、八咫烏帽をかぶった権宮司が光ヶ峯(ひかりがみね)遥拝所にて神饌を供える。
大松明と扇神輿が出会うと、大松明12体が円陣を組んで石段をまわって扇神輿に火の粉を浴びせ、扇神輿の前の神役も扇子を開いて松明の炎を扇ぎ、扇神輿を清める(「松明火焔の清め」、「大松明による扇神輿の清め」)。一方では火払所役が手桶の水を汲んでは松明に浴びせかけ、火の粉を消して回る。炎と、松明所役と扇指しが交し合う掛け声が一丸となって祭りは頂点に達する。祭礼のこの部分に見られる炎の乱舞は、「火祭り」「御火の神事」と呼ばれるものであり火祭りの名の由来である。
炎の乱舞が繰り返されるうちに松明の炎も消えかかり、松明は火所へ帰って炎を消して納める。御滝本へ進んだ扇神輿は、権宮司から扇褒め(おうぎほめ)の神事を受けて、滝本祭壇左右に立てられる。滝本祭の神事が執り行われた後、松明所役も交えた田刈舞(たかりまい)・那瀑舞(なばくまい)が奉納され、一同は大社へ還御する。再び礼殿前に扇神輿が飾られて還御祭(かんぎょさい)の神事が行われた後、神役の手で扇神輿が解体され、扇祭りは幕を閉じる。