一宮 一宮制研究史 ①
昭和58年(1983年)に発表された『国司神拝の歴史的意義』の序文において、一宮関係の史料は決して多いとは言えず、地域的にも偏りがあるため、諸国一宮の性格を統一的には把握できていない、と述べられていた。 その後、一宮制研究は前進し、平成12年(2000年)に出版された『中世諸国一宮制の基礎的研究』の冒頭、『中世諸国一宮制研究の現状と課題』によれば、現在までのところ、研究史は大まかに以下の3つに区分できるとしている。
1 【神社史・神社制度史の観点からの研究】
幕末から1960年代までの研究で、『神社思考』を著した伴信友(ばん のぶとも)から、『神道史』を著した宮地直一の戦前・戦後の研究に代表されるもの。
2 【封建領主権力(国衙(こくが)・幕府守護)による政治的イデオロギー支配の観点からの研究】
1960年代末以後、上記の研究を克服する形で提起されたもの。
3 【地域史や宗教史・都市史・国家史などの多様な観点からの研究】
1980年代以後に進められた、上記2つの研究成果を新たな観点から総括し直し、その上に立った多様な視点から一宮制の全面的な解明を目指すもの。
しかし、この様な研究史を経たためか、『「鎮守神」と王権』にあるのように、神社制度として一宮制の基本軸を確立してから諸国一宮を論じるべきではないかとする考え方。『中世長門国一宮制の構造と特質』にあるように、諸国一宮の実態を明らかにすることで、一宮制の普遍的側面を明確にしようとする考え方など、現在も研究者によって方向性に違いが見られる。