鯰絵の前身 歌舞伎
ナマズが大地震を起こすという俗説は江戸時代中盤には既に民衆の間に広まっていた。歌舞伎十八番の一つである演目『暫(しばらく)』には「鯰坊主」という悪役が登場し、主人公に対し地震を背景とした強がりを言う場面がある。地震の後発行された鯰絵にも、『暫』を題材としたものが見受けられる。『暫』の主人公が鯰坊主を要石で押さえつける、というのが主な構図である。要石による大鯰の制圧は本来は鹿島大明神の役割で、歌舞伎の『暫』にはこのような場面は登場せず、両者の特徴を組み合わせた構図とみられる。このほか、『与話情浮名横櫛』(よわなさけうきなのよこぐし)『鞘当』(さやあて)などの演目も鯰絵の題材とされている。