那智参詣曼荼羅 空間の構成 構図の読解 



霊場を描く限りにおいて、参詣曼荼羅の空間は個々の要素の単なる集積ではない。霊場を貫く参詣道は、参詣者の歩みとともに絵図を完結した宇宙に編成し構造化する機能を担っている。このとき、目を引くのが道者姿の二人連れである。この二人連れは、右下の関所から、那智の山内を巡りつつ左上の妙法山まで、参詣道の要所に描かれて標識の役割をになっている。妙法山への坂道を上っていたはずの二人連れの姿は、山頂の堂舎の前で消え、二人を先導していた山伏と荷物持ちだけが社殿の前で拝礼する姿が描かれている。黒田日出夫は、この二人連れは死者であり、死して山上他界=浄土たる那智山にやって来た、もしくはそのどこかに埋葬されたとする読解を示した。しかし、西山克によれば、黒田のこうした読解は妙法山を山中他界とする伝承を参照したものではあるが、中世宗教画の意味論的統辞法を踏まえるならば、この絵図において最も有意な空間は斎庭であり、妙法山は点景のひとつに過ぎない。