那智参詣曼荼羅 図像の読解 参詣道
那智浜周辺から図中を左へ進むと、木戸がある。木戸は図の右下端にも見られ、関所を描いたものである。これらの関所では関銭が徴収され、那智山の本願所の収入となった。さらに進むと「二の瀬橋」(にのせばし)がある。この橋は、道者が川の水で身を清めるのが習いであったため「禊橋」(みそぎばし)とも称され、その描写が見られる。この次の橋は、聖俗を振り分ける境界の瀬に架かる「振架瀬橋」(ふかせばし)で、熊野九十九王子(くまのくじゅうくおうじ)の最後の一社である多富気王子(たふけおうじ、たぶけおうじ)が祀られている。この橋の下には少年を背に乗せた龍神が描かれ、那智における水神信仰を示している。この橋を渡ると大門坂(だいもんざか)の下にたどり着く。
大門坂は、両側に杉並木のある石畳の坂で、途中には「日本第一大霊験所根本熊野三所権現」の扁額を掲げた仁王門がそびえており、ここでも関銭が徴収されていた。仁王門を過ぎると道がふたつに分かれる。一方を御幸道といい、那智の社殿前へ直行する道である。もう一方は順礼道といい、滝本へ通じる道である。