五輪塔 五輪九字明秘密釈
覚鑁著作の「五輪九字明秘密釈」(ごりんくじみょうひみつしゃく)とは、「五輪」つまりア・ヴァ・ラ・カ・キャ(胎蔵界の大日如来の真言)と 「九字」つまりオン・ア・ミリ・タ・テイ・セイ・ラ・ウーン(阿弥陀仏の真言)との 「明」つまり真言についての「秘密釈」つまり密教的解釈という意味である。
「五輪九字明秘密釈」には胎蔵界曼荼羅の解釈から阿弥陀仏の極楽浄土と大日如来の密厳浄土(みつごんじょうど)は本質的には同じものであり、釈迦や弥勒菩薩、毘盧遮那仏など他の仏やそれぞれの浄土も本質的には同じものであり、往生と即身成仏も本質的には同じものと書かれている。それは五輪塔が宗派を超えて成仏できる仏塔であることを意味する。
五輪塔の円形=水輪は胎蔵界の大日如来の印を表し、三角形=火輪は金剛界の大日如来の印を表している。これは五輪塔が五大に加え空海が『即身成仏儀』に書いた識大(しきだい)をも併せ持つ六大の意味を持つということである。識大とは仏と一体になることを意味し、成仏することを意味する。2つの印を結ぶということはまた、五輪塔が金剛界と胎蔵界の2つの曼荼羅を併せ持つ立体曼荼羅であることをも意味する。
また、五輪塔は成仏するための3つの行い密教の三密(さんみつ)を併せ持つ。三密には身密(しんみつ)、口密(くみつ)、意密(いみつ)がある。
1 身密(しんみつ)
=手に印を結ぶ。五輪塔は胎蔵界と金剛界の大日如来の印を結ぶ。
2 口密(くみつ)
=口で「真言」「陀羅尼」をとなえる。五輪塔に真言を彫ることにより、死者が真言をとなえる形になる。
3 意密(いみつ)
=心を集中して「三摩地」(さんまじ)の境地に入らせる(座禅をすること)。
五輪塔は、方形=地輪が人が脚を組む形、円形=水輪、三角形=火輪が印を結び、半月形=風輪が顔、宝珠形=空輪が頭と、人が座禅をする形をとっている。これは「大日経疏秘密曼荼羅品」や「尊勝仏頂脩瑜伽法軌儀」の記述を図解したものと考えられる(「金剛輪臍已下」「大悲水輪臍中」「智火輪心上」「風輪眉上」「大空輪頂上」)。
『五輪九字明秘密釈』により宗派を超え、幾重にも成仏の形を持つのが五輪塔の構造や概念と言える(参考資料 小畠広充監修編著『日本人のお墓』)。なお、この著がしばしば五輪塔の起源であるかのように引用されるが、上に述べたようにこの著以前に五輪塔は出現しており、その普及に大いに寄与したと言えても起源とするのは適切でない。