五輪塔 材質と形態
立体化された五輪塔の材質は石造のものが主体をなし、安山岩や花崗岩が多く使われている。古いものには凝固岩のものが見られる。他に木製、金属製、鉱物製(水晶)、陶(瓦)製、土製の塔もある。
五輪塔は下から四角(6面体)・丸(球)・三角(四角錐または三角錐)・半丸(半球)・上の尖った丸(宝殊型)または尖っていない団子型(団形)を積み上げた形に作られる。製作された時代・時期、用途よって形態が変化するのが特徴である。石造のものは変化に富んでおり、例えば鎌倉時代に多く作られた鎌倉方五輪塔とよばれるもの、一つの石から彫りだされた小柄な一石五輪塔(いっせきごりんとう)、火輪(三角の部分)の形が三角錐の三角五輪塔(伴墓の重源(ちょうげん)塔に代表される)、地輪(四角)の部分が長い長足五輪塔(ちょうそくごりんとう)、火輪の薄い京都型五輪塔とよばれるものなどがある。京都高山寺(こうざんじ)の明恵(みょうえ)上人(1232年寂)の廟堂内にある五輪塔の火輪には反りがなく軒口もわずかに面を取る程度の珍しいもの。石造五輪塔の火輪は「三角」とするものの、屋根面と軒に反(そ)り、そして厚い軒口を持ちあたかも屋根のように造形するのが一般的である。ただし宝塔の笠によく見られる棟瓦や軒裏の垂木の造り出しは決して見られない(唯一の例外が京都革堂(こうどう。行願寺(ぎょうがんじ))の五輪塔で軒裏に垂木様の刻み出しが見られる)。また、板碑(いたび)や舟形光背(ふながたこうはい)に彫られたものや、磨崖仏として彫られたものもあり、浮き彫りや線刻(清水磨崖仏(きよみずまがいぶつ)などに見られる)のものもある。石造火輪にはまれに「噛み合わせ式」のものが見られる。これは普通は火輪の上部を削平したうえに風輪を載せるのに対し、あたかも火輪の先端を風輪に突き刺したかように一体化したものであり、代表例として高野山西南院五輪塔(二基)が挙げられる。また古い五輪塔では火輪の上部に層塔の屋根のように露盤を刻みだすものがある。
経典によれば、五輪はそれぞれ色を持ち、地輪は黄、水輪は白、火輪は赤、風輪は黒、そして空輪は全ての色を含む(「一切色」「種種色」)とされ、木造五輪塔の中にはこうした着彩が施されたものがしばしば見られる(空輪は青に塗る)。
特殊な例としては、一般的に塔婆や卒塔婆と呼ばれる木製の板塔婆や角柱の卒塔婆も五輪塔の形態を持つが、五輪塔とは言わず、単に塔婆や卒塔婆という。卒塔婆(ソトーバ)はインドにおける仏舎利を収めたストゥーパの中国における漢字よる当て字で、日本では略して塔婆や塔ともいわれる。ただ、塔は近現代の一般的な塔の意味との混同があるため、現代では仏塔(ぶっとう)という場合が多い。つまり、五輪塔の形=仏塔のように扱われている。木製の角柱の卒塔婆は石造の墓を作るまでの仮の墓として使われることも多い。