ニンマ派の特徴 伝承


本来、ニンマ派には密教に特有の『写瓶』(しゃびょう)という「コップからコップへ全てを移し替えること」にも譬えられる古い「伝承方法」が生きていて開祖グル・パドマサンバヴァの秘訣を伝えている。



チベット動乱を契機として、1959年に亡命したドゥジョム・リンポチェによって伝統の維持とニンマ派の復興を目的として『写瓶』におけるこの「伝承方法」が実際に公開され、その直接的なゾクチェンの教えによって、当時、六大流派の総帥をはじめとして、数多くの伝承者やゾクチェンの成就者が現代に現れたため、「伝承方法」が現代に甦った。ただし、『面授口訣(めんじゅくけつ。師が弟子に直接面接して言葉で秘伝を授けること)という形態を変えることはできないので、学校形式で教える現在のチベットの仏教大学や、今では通過儀礼となっている外国人にも門戸を開いた阿闍梨(あじゃり)の資格習得のために行なわれる三年三箇月の「閉関修行」(へいかんしゅぎょう)等では伝えられていない。また、もともと密教は文字によらない教えであり、その伝授の核心を文字で表現するとなると困難が伴うが、敢えて表現すると「伝承方法」は心を許した師と弟子が互いに見つめあうだけ、師が弟子の心のありようをただ指し示すだけで密教における全ての教えの核心が伝えられるのであるが、ニンマ派の教えと密教の『写瓶』を理解する上では大変に重要である。なお、この「伝承方法」は今もドゥジョム・リンポチェの弟子らによって継承され、1989年にはソギャル・リンポチェによって日本でも公開された。



『写瓶』は密教の三原則である「法身説法」(ほっしんせっぽう)を基に成り立つものであり、教法の「タクナン」等は「法身説法」が理解されなければ、ただの迷信や創作と誤解されかねない。また、「ゾクチェン」の教えが禅と明らかに異なると指摘できる理由の一つは、この『法身説法』が有るか無いかということである。