准胝曼荼羅 ②『本尊曼荼羅』
l 『本尊曼荼羅』とは、「唐密」において単尊の准胝観音を曼荼羅の本尊として中心に配置し、その周りを多数の尊格が取り囲む形式で描かれる曼荼羅のことで、日本では「別尊曼荼羅」(べっそんまんだら)とも呼ばれる。明本の『大准提菩薩焚修悉地懺悔玄文』に基づくものと、後の『準提大曼荼羅法』の儀軌に基づくものとでは尊格の異同があるが、ここでは『大准提菩薩焚修悉地懺悔玄文』によるものを紹介する。准胝観音の『本尊曼荼羅』の特徴としては、『幻化網タントラ』の曼荼羅と同じく日本の金剛界曼荼羅と胎蔵界曼荼羅の両方の講成を併せ持つことである。
l 中央に本尊となる七倶胝仏母尊那九界大菩薩(准胝観音)を配置し、その上方(南)に無相法界菩薩(大日如来)を置き、時計回りに仏頂大輪菩薩(大輪明王)、不動尊王菩薩(不動明王)、聖観自在菩薩(聖観音)、不空羂索菩薩(不空絹索観音)、金剛手明王(金剛薩埵)、伊迦惹托菩薩(イケイジャット。一髻羅刹(いっけいらせつ))、縛羅曩契菩薩(プラナキ。勝三世明王(しょうざんぜみょうおう)を配する。以上で准胝観音を中心とする中台八葉(ちゅうだいはちよう)の代表的な九尊が定まり、中台八葉の外側の四方には戯(嬉)・縵・歌・舞を供養する四菩薩を配置し、同じく四隅には准胝観音の寶瓶(ほうびょう。宝瓶)を配置する。内院となる四方には香・花・灯明・塗香(ずこう)を供養する四菩薩を配置し、四隅には鈎(かぎ)・索・鎖・鈴を持った四菩薩を配置する。その内院の下方(前面)には、持明院として結界の守護尊となる明王の甘露軍陀利菩薩(軍荼利明王。ぐんだりみょうおう)、烏枢沙摩菩薩(烏枢沙摩明王。うすさまみょうおう)、聖降三世菩薩(降三世明王。ごうざんぜみょうおう)の3尊が並ぶ。また、その外院となる周囲には、諸仏菩薩として、上方に「准胝法」の法脈における祖師となる龍樹(龍猛)菩薩を配置し、そのすぐ下から時計回りに北辰妙見菩薩(みょうけんぼさつ。マハカリ)、大威杜将主菩薩(大威徳明王。だいいとくみょうおう。)、聖孫那哩将主菩薩(スンナリ)、頂行将主菩薩(無能勝明妃。、むのうしょうみょうひ)、聖軍托利将主菩薩(持明王主)、聖矜羯羅将主菩薩(矜羯羅童子。こんがらどうじ)、聖制托迦将主菩薩(制多迦童子。せいたかどうじ)、訶梨智母将主菩薩(鬼子母神)、乾闥婆(けんだつば)王将主菩薩(ガンダルバ)、灌頂部主菩薩(釈迦如来)、穢跡金剛(えしゃくこんごう)菩薩、明蛇使者菩薩(八大竜王女)の13尊らが回りを取り囲み、更には、護法諸天を配置して、これを准胝観音の一切の聖衆が集会している『本尊曼荼羅』とする。