十六小地獄 焦熱地獄(しょうねつじごく)
十六小地獄とは、仏教の地獄に伝わる八大地獄の周囲に存在する小規模の地獄で、地獄に落ちた亡者の中でもそれぞれ設定された細かい条件(生前の悪事)に合致した者が苦しみを受ける。条件は当時の倫理観や仏教の教えに沿っているため、中に
は現在の倫理観や社会風俗などに合わないものも存在する。
ここでは、生前に殺生・盗み・邪淫・飲酒・妄語・邪見の罪を犯したものが落とされる焦熱地獄の小地獄を解説する。なお、特に断りがない場合、種類と描写は「正法念処経」の記述に従う。
大焼処(だいしょうしょ)
「殺生をすることで天に転生することができる」という邪見を述べた者が落ちる。もろもろの火の他に、文字通り「後悔の炎」が生じて内側から罪人を焼き焦がす。
分荼梨迦処(ぶんだりかしょ)
「飢えて死ぬことで天に昇ることができる」と説いた者が落ちる。体中から炎が吹き出して苦しんでいる罪人の耳に、「ここには分荼梨迦(ぶんだりか)の池があり、水が飲める」という声が聞こえる。その声に従って池に飛び込むとそこは水ではなく炎の中で、さらに苦しむ羽目になる。
龍旋処(りゅうせんじょ)
「欲、怒り、愚かさを断てば涅槃に入れる、という教えは嘘だ」と説いた者、礼儀作法の意味を解さなかった者が落ちる。身体から毒を発する悪龍がたくさんおり、罪人の周囲で激しく回転する。罪人は毒と回転の摩擦でぼろぼろに砕かれる。
赤銅弥泥魚旋処(しゃくどうみでいぎょせんしょ)
「この世に存在する一切は大自在天の作ったもので、輪廻転生などはない」と説いた者が落ちる。高熱の銅汁の海に鉄の魚がおり、溺れる罪人の上半身を噛む。下半身は銅の海で焼かれ、また海中の悪虫に食いつかれる。
鉄钁処(てっかくしょ)
「たとえ殺人を犯しても、もしもその殺された人が天に生まれ変われるなら殺人は悪くない」と説いた者が落ちる。「平等受苦無力無救」「火常熱沸」「鋸葉水生」「極利刀鬘」「極熱沸水」「多饒悪蛇」という六つの巨大な釜があり、罪人を煮る。
血河漂処(けつがひょうしょ)
何度となく戒に違反しながら「苦行すれば全ての罪は許されるのだからかまわない」と考え、自らの身体を傷つけるような苦行を行った者が落ちる。文字通り血の河に漂う地獄で、河の中に群れ成して住む丸虫が罪人に取り付いて焼き焦がす。
饒骨髄虫処(にょうこつずいちゅうしょ)
今よりもよい世界ではなく、当たり前の人間界に転生することを望んで戒を破り、牛の糞に火をつけて自らの身を焼いた者が落ちる。鉄の杵で打たれて蜜蝋のようにどろどろにされ、前世の罪のために虫となって地獄に落ちた者たちと混ぜ合わされて肉の山となり、火をつけて燃やされる。
一切人熟処(いっさいにんじゅくしょ)
邪教を信じ、天界に転生するために山林や草むらなどに放火した者が落ちる。罪人の目の前で家族や友人など、かけがえのない人々が焼かれるのを見せ、精神的な責め苦を与える。
無終没入処(むしゅうぼつにゅうしょ)
「動物や人間を焼き殺したものは火を喜ばせたという理由で幸福を得られる」と考え、実行したものが落ちる。燃え盛る巨大な山に登らされ、手、足、頭、腰、眼、脳などに分解されてそれぞれが燃やされる。
大鉢特摩処(だいはちとくましょ)
僧たちに食事を供する大斎の期間中に殺人をすれば望みが叶うと考え、実行した者が落ちる。花弁の中に無数の長い棘がある紅蓮華の花の中に落とされ、全身串刺しになる。しかも傷口から炎が吹き出す。
悪険岸処(あくけんがんしょ)
「水死したものは那羅延天(ならえんてん)に転生し、永遠にその世界に住み続ける」と説いた者が落ちる。獄卒たちが「あの大きな山を越えれば苦を受けることはなくなる」と言うのでその通りにすると、山の向こうの切り立った崖に落ち、崖下の石の刀に刺さって燃やされる。
金剛骨処(こんごうこつしょ)
「この世にある一切のものは因縁などとは関係なく生じたり滅したりするので、仏法を信じるなどばからしい」と説いた者が落ちる。獄卒に刀で肉を削られ骨だけにされるが、この骨は金剛のように硬くなっている。すると、罪人に騙されたものたちが現れてその骨を手に取り打ち合わせる。骨だけになっても罪人は苦痛を感じる。
黒鉄縄(扌+剽)刀解受苦処(こくてつじょうびょうとうかいじゅくしょ)
「人間の行いの善や悪などはすべて因縁によって決まっており、変えられないのだから、あれこれ頑張ってみても無意味だ」と説いた者が落ちる。鉄の綱で縛られ、足から頭にかけて刀で細かく裂かれる。
那迦虫柱悪火受苦処(なかちゅうちゅうあくかじゅくしょ)
「宇宙にはこの世もあの世も存在しない」と説いた者が落ちる。罪人の頭を貫通させた大きな釘を、そのまま地面に打ち立てる。その後罪人の体内に虫が湧き出し、血を吸い尽くした後に肉まで食べる。
闇火風処(あんかふうしょ)
「この世の法則には無常ばかりではなく一定不変なものもある」と説いた者が落ちる。悪風に吹き飛ばされた罪人の身体が風の渦の中で回転し続ける。時折別の強風が吹くと身体が砕かれて砂のようになるが、すぐ再生して同じことのくり返しになる。
金剛嘴蜂処(こんごうしほうしょ)
「人間の世界は因縁によって生じたので、全ては因縁によって決定されている」と説いた者が落ちる。極卒がはさみで罪人の肉を少しずつちぎり取り、さらにそれを自分自身に喰わせる。