実在する牛鬼の遺物
徳島県阿南市の賀島という家では、牛鬼のものと伝えられる獣類の頭蓋骨が祠に安置されている。これはかつて賀島家の先祖が、地元の農民たちの依頼で彼らを苦しめる牛鬼を退治し、その首を持ち帰ったのだという。
福岡県久留米市の観音寺にも牛鬼の手とされるミイラがある。康平(こうへい)年間(1063年)に現れた牛鬼のもので、牛の首に鬼の体を持ち、神通力を発揮して近隣住民を苦しめ、諸国の武士ですら退治をためらう中、観音寺の住職・金光(こんこう)上人が念仏と法力で退治したものという。手は寺へ、首は都へ献上され、耳は耳納山(みのうさん)へ埋められたという。耳納山の名はこの伝説に由来する。
香川県五色台(ごしきだい)の青峰の根香寺(ねごろじ)には、牛鬼のものとされる角が秘蔵されている。これは江戸時代初めに青峰で山田蔵人高清(やまだ くらんど たかきよ)なる弓の名手に退治された牛鬼とされ、同寺に残されている掛軸の絵によると、その牛鬼は猿のような顔と虎のような体を持ち、両前脚にはムササビまたはコウモリのような飛膜状の翼があったという。この掛軸と遺物は、現在では諸々の問題により一般公開されておらず、ネット上でのみ公開されている。