大乗の涅槃経 末法思想との関係


また涅槃経は、末法思想にすすんで言及し、教説を展開している。末法思想大集経(だいじっきょう)の「我が法の中において闘諍言訟し白法隠没す」を根拠として法華経等の諸経に説かれる仏教の衰退をあらわす下降史観であるが、一般的には仏教は末法そのものを肯定したままの感がある。このことから「仏教はニヒリズムなので救いがない」と批判されることもある。



しかし涅槃経では末法を簡潔に否定している。たとえば、四依品(しえぼん)・菩薩品(ぼさつぼん)・月喩品(がつゆぼん)などでは「是の大般涅槃経が地中に隠没するを以って正法の衰相といい、この経が没し終って諸の大乗経も滅没し、この経が誹謗された時は仏法が久しくして滅す」とあり、先の大集経の「白法隠没」の経文とリンクさせている事が窺えるほか、涅槃経の隠没=仏教の衰退と定めていることは注目すべき点である。また「正法滅し非法増長した悪世においても、再び是の大般涅槃経が現れ大教下を与える」などと随所において、仏性及び仏法僧の三宝の一体・常住・不変を大きな柱として、最終的に末法を方便説として定め否定している。



なお察するに、この展開は当初否定しつつあった闡提成仏を最終的に認めたのと同じく、仏教における段階的説法の形式に則し、その最終形を表したもので、一切の衆生を涅槃経によって救わん、という経典作者の意図をして大乗仏教の究極の目標を徹底的に示した記述である。