大乗の涅槃経 法華経との関係③
また、長らく釈尊に違背し五逆罪を犯したとされる提婆達多は、法華経において未来に成仏し天王如来となると説かれている。これは仏教一般では「悪人の成仏」とみなすが、日蓮はさらにこれを「一闡提(いっせんだい)の成仏」と解釈する。しかし涅槃経では提婆達多は一闡提ではないと明言している。提婆達多に関しては、この二つの経文以外に、多くの経の中で、悪人とされており、涅槃経と法華経の記述のみで、全貌を知ることは出来ないということはある。
なお、法華経では提婆達多は逆罪を犯した大悪人だったという直接的な記述はない。これは釈尊と提婆達多が傍からは窺い知れぬ微妙な関係だったことが背景としてあり、またそれが長らく仏教教団全体において語り継がれてきた結果による記述と思われる。この観点は涅槃経においても同様に引継がれ、釈尊が提婆達多を罵辱したこともなければ彼が地獄に堕したこともなく、提婆達多は一闡提ではない、また声聞縁覚でもなく、ただ諸仏のみが知見できる所であると、さらに具体的にすすんで言及している。またこれは大乗仏教の観点から言うと、自説に違背する輩をいかに救わんとするかという究極の思想発展として注目に値するものである。