五時八教説 五時 五味相生の譬
また智顗は、華厳・阿含・方等・般若・法華涅槃の五時を涅槃経に説かれる、乳酥・酪酥・生酥・熟酥・醍醐の五味である五味相生の譬(ごみそうしょうのたとえ)に配釈した。
1 乳酥=華厳
2 酪酥=阿含
3 生酥=方等
4 熟酥=般若
5 醍醐=法華涅槃
これは醍醐(だいご)のたとえとしても有名である。しかし、この涅槃経の記述は、あくまでも、あらゆる経典の中で涅槃経が最後であり優れたものである、ということを説いたもので、厳密にいえば、そこに法華経の名称は見当たらない。
実際に涅槃経を読めば「牛より乳を出し、乳より酪酥(らくそ)を出し、酪酥より熟酥(じゅくそ sarpis サルピス:カルピスの語源)を出し、熟酥より醍醐を出す、仏の教えもまた同じく、仏より十二部経を出し、十二部経より修多羅(しゅたら)を出し、修多羅より方等経を出し、方等経より般若波羅密を出し、般若波羅密より大涅槃経を出す」(「譬如從牛出乳 從乳出酪 從酪出生蘇 從生蘇出熟蘇 從熟蘇出醍醐 醍醐最上 若有服者 衆病皆除 所有諸藥、悉入其中 善男子 佛亦如是 從佛出生十二部經 從十二部経出修多羅 從修多羅出方等経 從方等経出般若波羅蜜 從般若波羅蜜出大涅槃 猶如醍醐 言醍醐者 喩于佛性」)とある。
したがって厳密には、以下のように配釈される(と想定される)。
6 乳=十二部経
7 酪酥=修多羅
8 生酥=方等経
9 熟酥=般若波羅密
10 醍醐=大涅槃経
智顗は、聡明なる閃きにより五時と五味を配釈した。しかし法華優位の立場から涅槃経を劣ると判じるその解釈については、やや牽強付会(けんきょうふかい。こじつけ)であった、という指摘が仏教学において多く提示されている。