インド密教の歴史 初期密教
呪術的な要素が仏教に取り入れられた段階で形成されていった初期密教(雑密)は、特に体系化されたものではなく、祭祀宗教であるバラモン教のマントラに影響を受けて各仏尊の真言・陀羅尼(だらに)を唱えることで現世利益を心願成就するものであった。当初は「密教経典」なるものがあったわけではなく、大乗経典に咒や陀羅尼が説かれていたのに始まる。大乗仏教の代表的な宗派である禅宗では「大悲心陀羅尼」・「消災妙吉祥陀羅尼」等々、日本でも数多くの陀羅尼を唱えることで知られているが、中でも最も長い陀羅尼として有名な「楞厳呪」(りょうごんしゅ)は大乗仏典の『大仏頂楞厳経』に説かれる陀羅尼であり、これが密教に伝わり陀羅尼(ダーラニー)が女性名詞であるところから仏母となって「胎蔵界曼荼羅」(たいぞうかいまんだら)にも描かれ、日本密教では「白傘蓋仏頂」(びゃくさんがいぶっちょう)と呼ばれマイナーな存在ではあるが、チベット密教では多面多臂の恐ろしい憤怒相の仏母である「大白傘蓋仏母」として寺院の守護者として祀られるようになった。ちなみに禅宗でもチベット密教でも、この陀羅尼を紙に書いてお守りとするが、中国禅では出家僧の「女人避けのお守り」ともされている。