インド密教の歴史
概略を説明すると、密教成立の背景には、インド仏教後期においてヒンドゥー教の隆盛によって仏教が圧迫された社会情勢がある。ヒンドゥー教の要素を仏教に取り込むことでインド仏教の再興を図ったのが密教である。しかし結果的には、インド仏教の密教化はヒンドゥー教の隆盛とインド仏教の衰退を変えられなかった。
西アジアからのイスラーム勢力が北インドを席巻しつつあった時代にあって、やがてインド仏教は、インド北部から侵攻してきたイスラーム教徒政権(デリー・スルターン朝)とインド南部のヒンドゥー教徒政権との政治・外交上の挟撃に遭うことになる。当時のイスラーム教徒から偶像崇拝や呪術要素を理由として武力的な弾圧を受け、12世紀におけるインド密教の最後の砦であったヴィクラマシーラ大僧院の炎上をもって、インドにおける密教は最終段階のインド仏教として歴史的には消滅に追い込まれる結果になった。