密教(みっきょう)
密教(みっきょう)とは「秘密の教え」を意味する。一般的には、大乗仏教の中の秘密教を指し、「秘密仏教」の略称とも言われる。中国語圏では一般に「密宗」(ミイゾン)という。
紹介
かつての日本では、密教といえば空海を開祖とする真言宗のいわゆる東密や、密教を導入した天台宗での台密を指したが、20世紀に入るまで、日本ではあまり知られなかった、インドやチベットにおける同種の仏教思想の存在が認知紹介されるに伴い、現代ではそれらも合わせて密教と総称するようになっている。そういった意味での広義の密教を、今日の仏教学では後期大乗仏教に分類し、「後期大乗」と呼称する。仏教学者の文献学的な密教研究では、松長有慶(まつなが ゆうけい)らを軸に、インド密教を発展段階に従って初期・中期・後期の三期に区分し、今日では日本密教や中国密教、チベット密教もこの枠組みに絡めて系統づけようとする考え方が主流とされている。江戸後期の日本で確立した分類である雑密・純密をそれぞれ大まかにインド密教の前期・中期に対応させることが多い。
真言宗においては、伝統的には、「密教」とは顕教と対比されるところの教えであるとされる。空海は『請来目録』や『弁顕密二教論』の中で、顕教と密教の二教を弁別し、「密蔵」の語を用いて密教の概念を説明した。インドの後期大乗仏教の教学(顕教)と後期密教とを継承したチベット仏教においても、大乗を波羅蜜乗(顕教)と真言乗(密教)とに分けるという形で顕密の教えが説かれている。
密教の徒の用語としては金剛乗(vajrayāna、ヴァジュラヤーナ)、真言乗(mantrayāna、マントラヤーナ)、秘密真言金剛乗などとも称される。「金剛乗」という呼称は本来、『金剛頂経』系の密教が自らを大乗 (mahāyāna)、小乗 (hīnayāna) と対比して第三の勝れた教えであることを称揚したものとされるが、拡大解釈により密教の総称として扱われる場合があり、欧米などでも文献中に仏教用語として登場する。チベット僧は顕教に対する自分たちの密教をチベット語でガクルグ(真言流)とかサンガク(秘密真言)と呼称し、欧文脈ではその同義語としてサンスクリットの「ヴァジュラヤーナ」を用いることが多い。
英語では Esoteric buddhism とも呼ばれるが、欧米の研究者は密教全般、とりわけ9世紀以降の後期密教をタントラ仏教 (Tantric Buddhism) と呼ぶことが多い。これは、8世紀以後に成立した密教経典がスートラではなくタントラと名づけられていることによる。また、欧米系の東洋学や宗教学において、殊に6世紀以降のインドの諸宗教に広く見られる特定の宗教文化・様式・傾向等をタントリズムとして括り、仏教の中の密教を「仏教のタントリズム」と捉えることにも関連している。