哲学的意味の苦
「仏教では、この世は『苦』であると説く」と聞くと、日本語の“苦”を思い浮かべてしまうのが普通である。しかし釈迦の説く「苦」は、現代語の「苦」とは別物であることに注意が必要である。現代語の苦は具体的には、肉体的な苦痛と精神的な苦痛とがあるが、仏教で説く「苦」とは例えば原始仏教では「苦しい事」の他、「虚しい事」、「不完全である事」、「無情である事」を指すとされ、それら精神的な側面を「苦」と表現している。したがって、覚りを得たからといって、病気や肉体的な苦痛が無くなる訳ではない。古い仏典には、肉体的な苦痛に耐える釈迦が描かれているし、釈迦が病死したことは間違いないとされている。