九字護身法(くじごしんぼう)



九字護身法』(くじごしんぼう)は、日本密教の依経の一つ『大日経』の実践法である『胎蔵界法』における「成身辟除結界護身法」が誤った形で民間に流布し、もとは印契(いんげい。印相(いんそう、いんぞう))の符牒(隠語)であった文字が、道教を源とする「臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・在・前」の9文字から成る呪文九字(くじ)に変化し、それに陰陽道事相(じそう)である『六甲霊壇法(ろっこうれんだんほう)が組み合わされて、今日に知られるような「四縦五横」(しじゅうごおう)の九字切り等の所作を成立させて、発展したとされる日本の民間呪術(じゅじゅつ)である。





由来

日本の密教にでは、真言宗天台宗とを問わずに四度立ての修法には「辟除結界」(びゃくじょけっかい)というのがある。この作法は、密教の修法を開始するに当たって、本尊聖衆をお迎えするためにその場所を清め、邪魔を打ち払い、結界(けっかい)を張って本尊の曼荼羅や寺院内の道場を守るためのものである。通常は密教の修法(しゅほう)には四種類あって、その修法の所属する部主の「教令輪身」(きょうりょうりんじん)に当る明王が、「辟除結界」の際における警護の主尊となる。

『胎蔵界法』の場合には、日本密教における最高の地位にある尊挌であり、修法の本尊となる大日如来の「教令輪身」である不動明王がこの任に当り、真言宗では修法の際の印契を衣(袈裟)の下で結び、真言も口の中で唱えて人に知られないようにするのに対して、天台宗では、印契を衣の外で結び、真言も聞こえるように唱えるため、本来は出家の修法にも関わらず在家の中には密教の「三昧耶戒(さんまやかい)についてよく知らないために、それを見ただけで結界の修法の所作を覚えようとする者も出て、そのため「辟除結界」の法が修験道における不動行者の存在や不動明王信仰の広がりに伴って形を変えて行き、やがて民間に流布されるに至った。