マヌ
マヌ(Manu)は、インド神話の登場人物である。彼は全生命を滅ぼす大洪水をヴィシュヌ神の助けで生き延び、人類の始祖となったと伝えられている。
大洪水にまつわるマヌの物語は次のような内容である。
あるときヴィシュヌ神は、アヴァターラ(化身)の「マツヤ(Matsya。サンスクリット語で「魚」の意味)となり、マヌの元を訪れた。ちょうどマヌは川へ入っていたが、自分の手の中に小さな魚が飛び込んで来て、大きな魚に食べられないよう守ってほしいと訴えると、その魚を瓶に入れて飼うことにした。じきに魚が成長したため池へ移した。その池にも余るほど成長したので川へ、そして海へと移していった。ここに至って魚つまりマツヤは自分がヴィシュヌの化身であることを明かした。そしてマヌに、船を用意し7人の賢者とすべての種子を乗せるよう告げて姿を消した。マヌが船を造ると予言通りに大洪水が起こった。マツヤは、長大な胴をしたヴァースキ蛇を船の舳先(へさき)に巻きつけ、その胴のもう一方の端を自分の角に結びつけると、船を高山の頂上まで引っ張り上げた。 このようにして生き残ったマヌが人類の始祖となり、ふたたび地上に生命があふれた。
彼の述べた教義をまとめたのが『マヌ法典』だとされている。
ヒンドゥー教の聖典であるプラーナ文献によるとマヌは14人いるとされる。14人のマヌとは、
§ スヴァヤムブヴァ・マヌ
§ スヴァーローチシャ・マヌ
§ アウッタミ・マヌ
§ ターマサ・マヌ
§ ライヴァタ・マヌ
§ チャークシュヤ・マヌ
§ ヴァイヴァスヴァダ・マヌ(あるいはサティヤヴラタ・マヌ)
§ サーヴァルナ・マヌ
§ ダクシャサーヴァルナ・マヌ
§ ブラフマサーヴァルナ・マヌ
§ ダルマサーヴァルナ・マヌ
§ ルドラサーヴァルナ・マヌ
§ ラウチャ・マヌ
§ バウティヤ・マヌ
の14人である。ブラフマー神の1日(カルパ)の終りに世界は帰滅するとされるが、カルパは全部で14期あり、そのためそれぞれに1人の人類の祖マヌが存在する。また1人のマヌの生存期間をマヌヴァンタラといい、それぞれが天の1200年、人間界の432万年に相当するとされる。
現在のマヌは第7のヴァイヴァスヴァタ・マヌであり、太陽神ヴィヴァスヴァットの子供である。(スーリヤの子供といわれることもある)。ヴィシュヌ神が救ったのはこのマヌとされ、彼からイクシュヴァークをはじめとする諸王家が誕生したと説明されている。