ハタ・ヨーガ 起源



『シッダ・シッダーンタ・パダッティ』


『シッダ・シッダーンタ・パダッティ』は土着的民間伝承によってゴーラクシャナータの作と伝えられるサンスクリット語のハタ・ヨーガの聖典で、現存する中ではかなり古い。アヴァドゥータ エゴや二元性を超越した聖者)の伝説についての記述が多い。ゲオルグ・フォアシュタインの『聖なる狂気』 (1991: p.105) はこれについて以下のように述べる。


「最古のハタ・ヨーガの聖典に『シッダ・シッダーンタ・パダッティ』があり、アヴァドゥータに関する詩が数多く記録されている。その一節(VI.20)には、変幻自在にあらゆる人格や役柄になりきる力について書かれている。ゴーラクシャナータは俗人のように振舞うこともあれば王のように振舞うこともあり、ある時は苦行者、またある時は裸の隠遁者のようであった。」




詳細

ハタ・ヨーガの総括的な教典は、スヴァートマーラーマが編纂した『ハタ・ヨーガ・プラディーピカー』である。著者自身は書名を『ハタ・プラディーピカー』と記している。『ハタ・ヨーガ・プラディーピカー』は、ゴーラクシャの著書とされる失伝した『ハタ・ヨーガ』や現存する『ゴーラクシャ・シャタカ』など、それ以前のサンスクリット語諸文献にもとづいて書かれているが、スヴァートマーラーマ自身のヨーガ経験についても記述がある。『ハタ・ヨーガ・プラディーピカー』にはさまざまな事項、例えばシャトカルマ(浄化)、アーサナ(坐法)、プラーナーヤーマ(調気法)、チャクラ(エネルギー中枢)、クンダリニー(本能)、バンダ(筋肉による締め付け)、クリヤー(行為、所作、クンダリニー覚醒技法)、シャクティー(神聖な力)、ナーディー(気道、脈管)、ムドラー(印相)といった事柄についての記載がある。

ハタ・ヨーガはシヴァ神が提唱したものと伝えられる。誰にも聞かれぬよう孤島で女神パールヴァティーにハタ・ヨーガの教義を授けたが、ある魚が2人の話を全て聞いてしまった。シヴァ神はその魚(マツヤ)へ慈悲を掛け、シッダ(成就者)に変えた。後にこのシッダはマツイェーンドラナータと呼ばれるようになった。マツイェーンドラナータはチャウランギーにハタ・ヨーガを伝えた。チャウランギーは手脚がなかったが、マツイェーンドラナータを見ただけで手脚を得ることができた。『ハタ・ヨーガ・プラディーピカー』にはアーディナータ(シヴァ神の化身)、マツイェーンドラナータ、ゴーラクシャナータなど、多数の著名なヨーギンについての記述がある。



現代のハタ・ヨーガの流派の多くは、ティルマライ・クリシュナマチャーリヤの教えに由来する。彼は1924年から死去する1989年までヨーガを指導した。欧米にヨーガを広めた著名な弟子には、躍動的なヨーガで知られるアシュターンガ・ヴィンヤーサ・ヨーガの創始者のパッタビ・ジョイス、正姿勢と補助道具が特徴のB・K・・アイヤンガール、インドラ・デーヴィー、クリシュナマチャーリヤの子でヴィニヨーガの創始者T・K・V・デーシカーチャールが挙げられる。T・K・V・デーシカーチャールは、クリシュナマチャーリヤから継承したヨーガを広めるため、チェンナイにクリシュナマチャーリヤ・ヨーガ・マンディラムを創立した。

リシケシのシヴァーナンダ(1887 - 1963)と彼の多数の弟子たちも、影響力のある大きな流れを形成した。シヴァーナンダ・ヨーガ・ヴェーダーンタ・センターを創立したヴィシュヌデヴァナンダ、ビハール・スクール・オブ・ヨーガを創立したサティヤーナンダ、インテグラル・ヨーガの創始者サッチダーナンダなど著名な指導者を輩出した。