即位灌頂の実施法


即位灌頂は、即位する天皇が摂関家、主に二条家の人物から印相と真言の伝授を受け(印明伝授)、それを即位式の中で実修する。しかし秘儀としての性格上、記録があまり残っておらず、その内容について知ることは困難であった。しかし近年、二条家に保存されていた文書が公開され、その中に即位灌頂関連の文書もあり、即位灌頂の実践方法についての研究が進みつつある。




印相の伝授は、即位式当日に行われることが基本であったが、印明伝授者が喪に服しているなどの事由がある場合、前日になることもあった。

即位灌頂の際、天皇が結ぶ印相は金剛界大日如来を表す智拳印(ちけんいん)とされる。大日如来を表す智拳印を結ぶ点については、本地垂迹において天照大神(あまてらすおおみかみ)と同一視された大日如来の印相を結ぶことによって、即位する天皇が大日如来と同一化し、至高な存在となる意味があるとされる。




真言は、胎蔵界大日如来の真言ないし荼枳尼天(だきにてん)の真言を唱えたとされる。なお、真言を唱えると言っても発声はせず、心の中で唱えた。荼枳尼天の真言は、後述する真言系寺院に伝えられている東寺方即位法でも用いられており、即位灌頂との密接な関連が指摘されている。性に関係が深い荼枳尼天が即位灌頂と関係があることについては、網野善彦(あみの よしひこ)が唱えたように性と天皇との関わり合いに求める説がある。

天皇が印明を結び、真言を唱える実修については、かつては即位式の際、天皇が高御座(たかみくら)まで歩いている間に行うと考えられていたが、最近の研究では高御座に着座してから行われたとされている。即位灌頂が秘儀であったことから、高御座に天皇が着座した直後、女官が天皇の顔を翳(さしば)で覆っている間に行われたと見られている。




上記は江戸期における二条家の即位灌頂についての文書からの分析であるが、室町時代は、例えば後奈良天皇(ごならてんのう)宸記(しんき)によれば、三印三明(さんいんさんみょう。つまり三つの印相と三つの真言)の伝授を受け、高御座へ進むまでに第一の印相を結び、着座後に第二、第三の印相を結ぶ方式をとっており、即位灌頂の実施方法は時代によってかなり変遷があったものと推定されている。