恩 仏教での概念
古代インドの原始仏教においては、他者によって自分のためになされたことを知り、それに感謝することが重要な社会倫理である、と説かれていた。この説明で用いられる古代インドの表現「krta(なされたる)」、「upakara(援助・利益)」は、中国で「恩」と翻訳されることになった。
この原始仏教の社会倫理の概念はやがて「四恩」(しおん)の概念へと発展した。
『正法念処経』(しょうぼうねんじょきょう)では、母親、父親、如来、説法してくださる法師からの恩、の四恩のことが説かれた。
『大乗本生心地観経』(だいじょうほんしょうしんじかんぎょう)では、父母、衆生、国王、三宝の四恩のことが説かれた。
中国では儒教が浸透しており、そこでは、親の恩、親の恩に報いる「孝」(こう)の倫理が重視されていた。よって、親の恩と孝を説く『父母恩重難報経』(ぶっせつ おんじゅう なんほう きょう)を中国人は重視した。
仏教では、自分がめぐみを受けていることに気づくこと、自覚することを「知恩」と言い、これを重視する。寺の名称などにもしばしば用いられている。
仏教では上記のように恩は肯定的に捉えられている。
ただし、古代インドの言葉で「trsna(渇愛)」や「priya(親の情愛)」も漢語で「恩」と訳されることがあり、そちらのほうは、仏教の修行の妨げになるものと理解されている。