仏説父母恩重難報経 概要



わけて説明するなら、以下の十種の恩徳があるのである。




懐胎守護(かいたいしゅご)の恩

始めて子を体内に受けてから十ヶ月の間、苦悩の休む時がないために、他の何もほしがる心も生まれず、ただ一心に安産ができることを思うのみである。



臨生受苦(りんしょうじゅく)の恩

出産時には、陣痛による苦しみは耐え難いものである。父も心配から身や心がおののき恐れ、祖父母や親族の人々も皆心を痛めて母と子の身を案ずるのである。



生子忘憂(しょうしぼうゆう)の恩

出産後は、父母の喜びは限りない。それまでの苦しみを忘れ、母は、子が声をあげて泣き出したときに、自分もはじめて生まれてきたような喜びに染まるのである。



乳哺養育(にゅうほよういく)の恩

花のような顔色だった母親が、子供に乳をやり、育てる中で数年間で憔悴(しょうすい)しきってしまう。



廻乾就湿(かいかんじつしつ)の恩

水のような霜の夜も、氷のような雪の暁にも、乾いた所に子を寝かせ、湿った所に自ら寝る。



洗灌不浄(せんかんふじょう)の恩

  子がふところや衣服に尿するも、自らの手にて洗いすすぎ、臭穢(しゅうえ)をいとわない。



嚥苦吐甘(えんくとかん)の恩

親は不味いものを食べ、美味しいものは子に食べさせる。



為造悪業(いぞうあくごう)の恩

子供のためには、止むを得ず、悪業をし、悪しきところに落ちるのも甘んじる。



遠行憶念(おんぎょうおくねん)の恩

子供が遠くへ行ったら、帰ってくるまで四六時中心配する。



究竟憐愍(くつきょうれんみん)の恩

自分が生きている間は、この苦しみを一身に引き受けようとし、死後も、子を護(まも)りたいと願う。