虚空蔵菩薩(こくうぞうぼさつ)



虚空蔵菩薩 (こくうぞうぼさつ)、梵名アーカーシャ・ガルバ (आकाशगर्भ [Âkâśagarbha])またはガガナ・ガンジャ(गगनगञ्ज [gaganagañja])は、仏教における信仰対象である菩薩の一尊。





三昧耶形は宝剣、如意宝珠(にょいほうじゅ)種子(種字)はタラーク (Trâḥ)。真言は「オン バザラ アラタンノウ オンタラク ソワカ」(Oṃ vajraratna, Oṃ trâḥ svâhâ)や、記憶力増進を祈念する修法(しゅほう)虚空蔵求聞持法(こくうぞうぐもんじほう)で用いられる「ノウボウ アキャシャ ギャラバヤ オン アリキャ マリ ボリ ソワカ」(Namaḥ Âkâśagarbhâya, Oṃ arika mari muri svâhâ) などが知られる。

「虚空蔵」はアーカーシャ・ガルバ(「虚空の母胎」の意)の漢訳で、虚空蔵菩薩とは広大な宇宙のような無限の智恵と慈悲を持った菩薩、という意味である。そのため智恵や知識、記憶といった面での利益をもたらす菩薩として信仰される。その修法「虚空蔵求聞持法」は、一定の作法に則(のっと)って真言を百日間かけて百万回唱えるというもので、これを修した行者は、あらゆる経典を記憶し、理解して忘れる事がなくなるという。 元々は地蔵菩薩の地蔵と虚空蔵は対になっていたと思われる。しかし虚空の空の要素は他の諸仏にとって変わられた様で、また地蔵菩薩の独自の信仰もあり、対で祀られる事はほぼ無い。



空海室戸岬の洞窟 御厨人窟(みくろど)に籠もって虚空蔵求聞持法を修したという伝説はよく知られており、日蓮もまた12歳の時、仏道を志すにあたって虚空蔵菩薩に21日間の祈願を行ったという。また、京都嵐山の法輪寺では、13歳になった少年少女が虚空蔵菩薩に智恵を授かりに行く十三詣り(じゅうさんまいり)という行事が行われている。胎蔵界曼荼羅の虚空蔵院の主尊であり、密教でも重視される。

像容は右手に宝剣左手に如意宝珠を持つものと、右手は掌を見せて下げる与願印(よがんいん)の印相とし左手に如意宝珠を持つものとがある。後者の像容は求聞持法の本尊で、東京国立博物館蔵の国宝の画像はこれに当たる。



彫像の代表例としては、奈良県大和郡山市額安寺(かくあんじ)像、京都市広隆寺(こうりゅうじ)講堂像などが挙げられる。奈良県斑鳩(いかるが)町法輪寺(ほうりんじ)の木造虚空蔵菩薩立像は7世紀にさかのぼる古像だが、当初から虚空蔵菩薩と呼ばれていたかどうかは定かでない。また、法隆寺百済観音像は宝冠が見つかった明治時代前半までは寺内で墨蹟(ぼくせき)銘から「虚空蔵菩薩像」と呼ばれていた。