「観音」か「聖観音」か
1面2臂の観音像がすべて「聖観音」と呼称されているわけではない。阿弥陀三尊のうちの左脇侍像として安置される観音像については、単に「観音菩薩像」と言うのが普通で、「聖観音」と称するのは、独尊像として祀られる場合にほぼ限られている。
また、1面2臂の独尊像でも「聖観音」と呼ばれていない例が多々ある。たとえば、奈良・法隆寺には「百済観音」(くだらかんのん)、「夢違観音(ゆめちがいかんのん)」、「救世観音(くせかんのん)」と通称される国宝の観音像3体があるが、これら3体とも国宝指定の際の正式名称は「観音菩薩立像」であり、正式名称としても通称としても「聖観音」とは言わない。
奈良時代を中心に盛んに造られた、いわゆる小金銅仏(しょうこんどうぶつ)のなかには、頭上に阿弥陀化仏を有することから、明かに観音像であるとわかるものが多いが、これらについても通常「聖観音」とは言わず、単に「観音(菩薩)像」と言っている。
「聖観音」と一般に呼ばれ、寺院側でもそのように称している像のうち、著名なものとしては、奈良・薬師寺東院堂の本尊像(奈良時代、国宝)、奈良・不退寺本尊像(重文)、京都・鞍馬寺像(重文)などが挙げられる。