ゾクチェン


(2) 「テルマ」(埋蔵経)の系統



テルマ」の系統とはニンティク(心髄、真髄とも訳)と呼ばれるゾクチェンの教えの系統のことである。「カンドゥ・ニンティク」(「空行心髄」と漢訳)、「ビィマ・ニンティク」(「卑摩心髄」と漢訳)、「ロンチェン・ニンティク」(「龍清心髄」と漢訳)の三つが代表的なもので、日本でゾクチェンの系統というと多くの場合「ロンチェン・ニンティク」の系統のことを指している。


§ 「カンドゥ・ニンティク」はニンマ派の「テルマ」に基づくゾクチェンの系統である。カンドゥ(ダーキニーのこと、空行母と漢訳)によって秘されていた教えとするところから「カンドゥ・ニンティク」と呼ばれ、六大流派それぞれが独自のニンティクを備えている。「テルマ」というと日本では創作と思われがちであるが、「サテル」(地下の埋蔵経)の中には歴史的資料性の高いものが含まれている。大きくいうと北のテルマ・南のテルマ・中央のテルマ・東のテルマ・西のテルマの五系統がある。このうち北のテルマが有名であり、東のテルマは量が少ないが古い伝承を伝えている。「カンドゥ・ニンティク」の系統は、ドゥジョム・リンポチェ、弟子のニュルシュク・リンポチェ、その弟子のイシェ・サンポ・リンポチェによって解明され、イシェ・サンポ・リンポチェの『赤宝珠錬』(ルビー)に詳しい。


§ 「ビィマ・ニンティク」の系統は、途中グル・パドマサンバヴァを介さずにインドの成就者からビィマラ・ミトラを経て直接チベットへと伝えられたゾクチェンの系統である。なお、チベット僧の中には「ビィマ・ニンティク」も「カンドゥ・ニンティク」の中に含めて考える人もいる。


§ 「ロンチェン・ニンティク」の系統はチベットの大学者ロンチェンパ (1308-1364) の教えをジグメ・リンパ (1729-1798) が深い瞑想の中で学んだ教えの系統を指している。そして、「ロンチェン・ニンティク」はインドで密教を学んだ中国人の成就者シュリー・シンハから弟子のヴァイローチャナ、ビィマラ・ミトラ、グル・パドマサンバヴァの三者に別々に伝えられたものを一つにまとめた系統の教えで、ロンチェンパまではニンマ派の伝承に基づき、ジグメ・リンパ以降はほぼ史実を伝えていると見てよい。



現在、「ロンチェン・ニンティク」の系統は六大流派の伝統の壁を乗り越えたドゥジョム・リンポチェと弟子のニュルシュク・リンポチェによって解明され、ニュルシュク・リンポチェの『藍宝石』(ラピスラズリ)に詳しい。